前回の記事(認知症ケア×多職種連携|どう埋める?介護と医療の深い溝)では、これからの認知症ケアに不可欠な多職種連携の基本的な前提をお伝えしました。職種の垣根を飛び越えて利用者と向き合う「多職種連携」の考え方にはほとんどの介護職、医療職が賛同しています。にも関わらず、現場ではなかなかこの「連携」が上手くいかないのが現状の課題です。
今回は、多職種連携の最大のネックになっているケアマネジャーと医師の連携の困難さについて紐解いてみたいと思います。
今、認知症ケアの現場で起きている課題
利用者と介護サービスを繋ぐケアマネジャーと、利用者を医療の面から支える医師。本来、信頼関係を構築して共に利用者を支えていかなければならないところ、現状この2つの職種の間には、深い溝が存在しています。地域のケアマネジャーを対象に行われたあるアンケートによると、医療従事者との“連携が困難と感じたケース”として以下のような事例が挙がっています。
- ケース1:発熱しているのに「予定通り退院してください」
- 病院に入院していた患者(利用者)が退院予定日前日に発熱。退院しても身寄りがなくサポート出来る環境がないため、ケアマネジャーは退院延期を希望するも、病院側の都合で予定通り退院を迫られる。結果、退院後病状が悪化し、3日後再入院となる。
- ケース2:医師の意見書、書く書かないトラブル
- 担当ケアマネから主治医に対して、福祉用具貸与のための意見書を書いてもらえるようお願いしたところ、「変形性膝関節症で歩行が困難」と記載された。そのため「車いすが必要」と記載をお願いするが、激昂して記載を拒まれる。
- ケース3:「個人情報なので情報を渡せません」
- 急性期病院に入院した利用者の経過の具合を、担当看護師が医師に尋ねると、「個人情報なので家族に直接尋ねてほしい」と返答される。家族も高齢で、病状の理解や現状の把握が出来ないため、家族に説明することも理解することも困難なケース。
- ケアマネと医師の連携に欠かせないこと|認知症ケア×多職種連携 - 2016/1/27
- 認知症ケア×多職種連携|どう埋める?介護と医療の深い溝 - 2015/12/4
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上記のケースをはじめ、ケアマネジャーの側からは「医療スタッフがこちらの話に聞く耳を持とうとしてくれない」と批判的な意見が散見されました。
医療に求める「生活」の視点
なぜ、ケアマネジャーと医師は噛み合わないのか。それは、それぞれ見ている視点が違う、ということに尽きると感じます。
ケアマネジャーの仕事は、認知症当事者あるいはご家族の“思い”を聞くことから始まります。特に、「生活する上でどんな不便があるか」に目を向け、必要な部分に介護サービスを充てて補っていくという役割を担います。
これに対して、医師は、「どんな疾患を持っているか」という入口から入ります。常に、本人の疾患が治療可能か、治療後の経過が順調かどうか、という点に重点が置かれます。かく言う私も看護師として働いていた頃は、「生活」をイメージして関わった記憶などありませんでした。滞りなく治療を終わらせることが何よりも重要だったのです。
ケアマネジャーは、「医師はもっと利用者の“生活”を見据えた治療をするべき」と考え、医師は、「ケアマネには医師の話をスムーズに理解してほしい」と考えます。問題は、こうした考えの差がありながら、多くのケアマネは医師に遠慮して直接意見することができない、ということです。
両者の要望をオフィシャルに交換できる場を
では、どうすればこのケアマネVS医師という対立構造を崩せるのでしょうか。
私自身、明確な回答はまだ持ち合わせていません。ただ分かっているのは、医師とケアマネの対立に振り回されて不利益を受けるのは、認知症の利用者ご本人と、そのご家族であるということです。
こうした犠牲を出さないためには、利用者と密接な関わりを持つ介護者側こそが、彼らの気持ちを代弁する必要があると感じます。医師に伝えていくことを恐れている場合ではありません。
もちろん、介護関係者にも思いがあるように医療関係者にも介護側への要望があります。
大切なのは、両者の意見交換を個人レベルで解決しようとしないこと。行政や医療介護関係団体、包括支援センターの相談窓口をフル活用し「利用者の最大の利益のための提案」をしていくべきです。私がケアマネジャーをはじめとする介護職の方々へ伝えたいのは、決して一人で抱えず、あきらめず、腐らず…「生活することの思い」の代弁者として責任を全うしましょう。ということです。一緒に頑張りましょう!

冨田 昌秀

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