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【かゆみのもとはお風呂にあった?!】
腰がかゆいらしくおむつを外そうとする人がいた。
説明しても、注意をしても、外して腰をかこうとする。
ある時、デイサービスの職員が
ボディソープを石鹸に変えてみたら
その日から腰をかくことは、ピタリとなくなった。
その人に影響するものに気づけることは、プロ冥利に尽きる。
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理由を探り続けたスタッフの姿勢に脱帽
この話を聞いたときはうなりました。「おむつ外しをする」と聞けば、おむつかぶれをまずは疑ったり、皮膚の乾燥を疑ったりすることが多いのではないでしょうか。この人の場合は、おむつのムレや不快感が理由かも?と仮説をたて、おむつ→リハビリパンツ→布パンツへと排泄の自立へとケアを進めました。
ところが、布パンツになっても腰をかく行為がなくなりません。医師からも、皮膚にトラブルはないと言われていたので、「なぜだろう?」と首を傾げていました。
ある日、デイサービスのスタッフが「もしかして原因はボディソープかも?」と思い、石鹸に変えてみたら、その日から、腰をかく行為がピタリとなくなったのです。思えば、確かに皮膚に刺激を与えるものは、直接触れるおむつや、衣類だけじゃないですよね。これぞまさに、理由を探り続けているスタッフだからこそたどり着ける境地。気づきそうで、気づかなかった理由だったので、まさに脱帽でした。
人の行動に影響する「環境的要因」
でも、考えてみると、ボディソープは確かに皮膚に刺激になるものですから、「そんなこと、意外でも何でもないじゃない」という人もいると思います。皮膚に刺激になるものとしてみれば、他にも下着の生地、おむつのムレ、塗り薬なども考えられます。
これらは、人を取り巻く環境ですから、「環境的要因」といいます。「環境的要因」は、今回のように直接的に身体に触れるものだけでなく、五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)によって影響を受けるものを含みます。
つくったおかずを食べなかった理由
ヘルパーがつくって冷蔵庫に入れておいたおかずを、それまでは食べていたのに、ある時期から食べなくなったことがありました。食欲が落ちたのかというと、並べたら完食するので、どうやら食欲の問題でもありません。味付けが気に入らないのだとしたら、そもそもこれまでも食べなかったでしょうから、味付けやメニューの問題でもなさそうです。そうなると、ついつい「認知症が進んで、わからなくなったんだ」と捉えがちですが、そのように捉えてしまえば、もはや理由を探ることなど不可能です。
登録ヘルパーから報告を受けたサービス提供責任者は、利用者が冷蔵庫の中のものを、どのように取り扱っているか、情報収集を始めました。毎日入るヘルパーに聞き取りをしたり、自分でも利用者宅に伺って、観察をしました。そうすると発見したのです。
その利用者は、以前は冷蔵庫内の棚、上段・中段・下段のそれぞれの棚の品物や食材を使っていましたが、いまは中段の棚のみ使って、上段・下段の棚には目線が向いていないというのです。そこで、つくったおかずを中段に置くようにしたところ、また食べるようになったのでした。
「必ず理由がある」と信じて疑わない
徐々に視野が狭くなってきたのかもしれませんが、いずれにしても、その時点で利用者は「冷蔵庫の中段の棚にあればわかる」という力があったということです。その力の変化を「認知症が進んだ」の一言で片づけてしまっていたとしたら・・・。理由に気づけて本当に良かったと思った瞬間でした。
「なんだろう?わからないなぁ」と思った時には、人の行動は必ず理由があると信じて、探り続ける姿勢を崩さないことです。ボディソープの件も気づくまでには半年以上かかりました。理由を探し出すのに時間がかかることもありますが、探り続ける姿勢があれば、ふとした瞬間に、手がかりを見つけられます。
わたしは、そういう人が身近に増えれば、「認知症があっても安心できる」のではないかと信じています。


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