なぜスウェーデンでは認知症が重症化しないのか。『オムソーリ』のケアにヒントをみる

スウェーデンの認知症ケア オムソーリとは

スウェーデンでは、認知症になっても多くの人が軽度でとどまり、自宅で過ごしているのをご存知でしょうか?なんと、1日たった15 分のホームヘルプで、認知症の高齢者のうち45%が一人暮らしを継続しています。認知症介護の先進国として、世界中から注目されるスウェーデン。そのカギは、アンダーナースと呼ばれる介護スタッフにありました。

今回は、アンダーナースが日々実践している『オムソーリ』のケアについて、医療福祉ジャーナリズムの専門家であり、スウェーデンの地方都市の高齢者ケアの現場を定点観測というスタイルで取材・研究を重ねた藤原 瑠美さんの講演内容(※)をご紹介します。認知症になっても幸せに暮らせるケアのヒントを、是非感じてください。

★今回お話を伺った方

藤原瑠美様プロフィール写真
●藤原 瑠美(ふじわら るみ)さん
博士(医療福祉ジャーナリズム学)。福祉勉強会「ホスピタリティ・プラネット」主宰。国際医療福祉大学大学院卒。1968年清泉女子大学英文卒業後、同年銀座和光入社。宣伝企画、婦人用品部などを経て2000年末に退社。90年より認知症の母の在宅介護を働きながら続け2000年10月 に自宅で看取る。2005年よりスウェーデン・エスロブ市の高齢者ケア現場で定点観測を続ける。著書に『ニルスの国の高齢者ケア―エーデル改革から15年後のスウェーデン)』(ドメス出版)★2013年度日本医学ジャーナリスト協会賞 優秀賞受賞、『ニルスの国の認知症ケア―医療から暮らしに転換したスウェーデン』(ドメス出版)、『残り火のいのち 在宅介護11年の記録』(集英社新書)等

(※)今回お話を伺った講演会「スウェーデンのケアの概念としてのオムソーリ」2015年12月17日スウェーデン大使館(運営:一般社団 スウェーデン社会研究所

国の認知症にかかる総経費、福祉85%、医療5%

(以下、藤原さんの講演内容より)スウェーデンは、1972年に世界でいち早く高齢社会を迎えました。高齢者ケアの軸足を、これまでの「医療中心」から「福祉中心」に転換してきました。例えば、認知症にかかる国の経費は、85%を福祉ケアが占め、医療はわずか5%にとどまっています。病院の数も極限まで減らしました。 

数ウェーデンの認知症ケアにかかる総経費の内訳

これを機に、認知症ケアの中心的な役割も、医師からアンダーナースをはじめとする福祉ケアに携わる人々に切り替わり、高齢者の「見守り」と「自立支援」を徹底的に行う流れになります。今でも、病院の数は、日本と比べて格段に少ないです。

スウェーデンと日本の病院数比較
※スウェーデン 人口971万人 日本1億2千万人

エスロブ市では、今や認知症ケアの主役は、オムソーリのケアを行う400人のアンダーナースです。アンダーナースは基礎的な医療の勉強を修めた介護スタッフ。認知症チームをはじめ、在宅リハビリチーム、在宅看取りチームなど、チームによる専門性を生かす試みが始まっています。

ある医師は「認知症の診断には6カ月かかりますが、診断が終われば、その後は福祉ケアを担う人々に引き継ぎます」と答えました。オムソーリのケアとは、介護を受ける人たち(本人)のニーズに臨機応変、柔軟に対応する働き方です。また、同時に自立支援のケアでもあります。
スウェーデンの介護施設外観

寝たきりは皆無。大半は自宅で普通に暮らせている

スウェーデンでは、アンダーナースによるホームヘルプを利用する認知症高齢者のうち、約半数が一人暮らしを続けています。その背景には、二世帯同居がないこと。別居家族による介護があり、地域の見守りが存在するおかげでもありますが、最大の理由は、認知症が悪化していないからです。

私が定点観測を続けたエスロブ市では、ホームヘルプを利用する認知症の人のうち、94%が軽度+中度でした。市内を隈なく歩きまわりましたが、寝たきりの人はいませんでした。

私が衝撃を受けたのは、あるベテランのアンダーナースから「いま大変なことが起きているの。痰の吸引が必要な患者さんがいるのよ。20年以上介護の現場にいて、こんなことは初めてよ!」と言われたこと。日本では日常的に行われる痰の吸引も、スウェーデンでは滅多に無いことなのですね。

スウェーデンに住む元気なおばあさん

1日わずか15分間のホームヘルプで必要十分なケア

スウェーデンでは、短い訪問で、認知症の人が在宅生活を維持できています。エスロブ市では1軒・1人あたりの平均訪問時間は、わずか15分!参考までに、アンダーナース、コリンさんの15分間を紹介します。

まず、所属先のチームでその日に訪問する利用者の特記事項(お昼は家にいない等)を全員で共有し合います。
アンダーナースのチームケア 朝のミーティング風景
車を降りたコリンさんは、利用者の家のカギだけを手に持ち、利用者宅へ向かいます。
アンダーナースコリンさん利用者宅へ向かう
利用者宅へ着いたら15分で以下を済ませます。

  • 薬箱の鍵をあけ、コップに水を入れ、投薬介助
  • 血流をよくする医療用ストッキングをはかせる
  • 寝室のベッドメイキング
  • キッチンで女性がオープンサンドを作るのを見守る
  • やかんに熱湯を沸かす行為は危ないので、変わって行う
  • トイレの便器掃除
  • 目覚まし時計を頼まれた時間にセット、目の前で本人に確認する
  • デイサービスのお迎えの時間を本人に確認する
  • 寒いので「窓を空けないこと」を念押しする
  • ゴミ出し

アンダーナースコリンさんと利用者

文字にすると結構な量ですが、この間、アンダーナースと利用者は途切れなく会話を続けています。コリンさんの身体の動きはとても落ち着いていて、気忙しさがありません。これだけ短時間で効率よく済むのは、アンダーナースの業務から家事援助の“掃除・洗濯”を、2週間に1度程度のサービスパトロールチームの仕事として切り離したこと。そして“調理”を、真空パックの調理食を導入したことで無くしたことも大きな要因です。切り離すことで、アンダーナースの働きがケアに特化され、丁寧さや気働きが生まれるのです。日本では、介護も家事援助も両方、ヘルパーの役割に含まれていますね。

自立心を育む「オムソーリ」ケアの中身

すべてのアンダーナースが共通して取り組んでいるのは、「オムソーリ(Omsorg)」と呼ばれるケアです。オムソーリとは、スウェーデンに古くからあった言葉で、 「悲しみや幸せを分かち合う」という原義です。なかでも認知症ケアにおける、オムソーリを構成するキーワードは、次のようなものです。

ポイントを絞ったニーズケア
その人にとっての必要なケアは何か、よく観察し、ポイントを絞る
できることは手伝わず、できないことだけを援助する
「お世話」ではなく「自立支援」、を常に念頭に置く
チームプレー
いつでも助け合えるように、利用者の状態をチーム全員で把握しておく
非マニュアル
「クリスマスまで生きたい」という末期患者がいれば、季節外れでもクリスマス飾りをする
入念で丁寧なケアをする
公的なケアを受け入れてくれない利用者がいれば、時には60回も通って利用にこぎ着ける
機転をきかせて、臨機応変に
家に入った瞬間、相手の状況をみてその日の優先順位を組み立てる
介護者自身が自分の心を静かに保つ
常に心を静かに保つ、動作にも気ぜわしさが感じられない
豊富な会話、声の力
些細なことからも会話を膨らませ、相手からも会話を引き出す
ともだちのような親しさと節度
フレンドリーに接するが、親しき仲にも礼儀あり、のスタンスは貫く

要約すると、感情をもつ人間によって行われる、入念で心遣いある支援ともいえるでしょうか。高齢の利用者の喪失感(いたみ)に共鳴するケアが、高齢者の自立心を育み、悪化を防ぐことにつながる、ということです。

日本の認知症ケアにもオムソーリの概念を

2035年、日本では団塊世代が85歳を超え、85歳を超えると急激に認知症の発症率が高まります。日本の認知症ケアは管理的で、“治療”を前提とした医療主体で語られることが多いのが現状です。しかし、いまだに認知症の根本治療は難しく、このまま対策を打たないと、重度の認知症の方が増え、未曾有の困難な時代を迎えることは避けられません。

日本も、認知症を悪化させないケアメソッドの開発と、介護職の地位の向上を本格的に進めることが必要な時期にきています。オムソーリは、日本にとっても有益な概念です。一人でも多くの人に広まることを祈っています。

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▼藤原さんの著書はこちら。2013年度日本医学ジャーナリスト協会賞 優秀賞受賞。長年のスウェーデンでの実地調査から、現地の介護の実態や医療の仕組みについて深く、分かりやすくまとめられています。

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認知症ONLINE 編集部

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