認知症のお年寄りが「古典音楽」に触れて涙した

認知症と古典音楽(三味線、長唄)

ご高齢者や認知症が進んだかたにも楽しんでいただけるコンサート「音楽の花束」を主催しています、GOTOです。今回は、古くから親しまれてきた音楽と、認知症のお年寄りに及ぼす影響について考えます。

「馴染みある曲」が認知症に良い理由

認知症が進んだかたにとっては「知っている」ことが「安心」に直結します。そのため、コンサートや音楽レクで馴染みある曲からスタートすることは大切です。曲を通して“その人の思い出に寄り添う”ことは、ターミナルケアにおいても、とても大切なことだと言われています。
また、「馴染みのある曲」を取り入れることは「思い出す」トレーニングにもなり、認知症予防にも効果的です。これは、予防において大切な

  • 脳に適度な刺激を与える
  • 色々な事に興味を持つ
  • 笑顔でいる

ことにもつながります。(きらめき介護塾「認知症の予防」脳活性化の五本柱より抜粋)
音楽の持つ力は、古来人の心を強く動かしてきました。ゲーテは建築を「沈黙せる音楽」、シュレーゲルは建築を「凍って硬くなった音楽」、そして音楽のことを「流れ出した建築」と語ったそうです。音楽が「流れている」「黙っていない」「熱く柔らかい」、生命力に溢れすばらしくエネルギッシュなものであるということでしょう。

馴染みのない「三味線音楽」、果たして受け入れられるのか?

「音楽の花束」では、馴染みの曲以外からも新鮮な驚きや感動、そして楽しさという音楽の持つ力を充分に味わっていただくことを意識しています。例えば以前、介護付有料老人ホーム「アズハイム横浜東寺尾」さまでは、長唄コンサートを行いました。

「長唄」とは三味線を使った音楽の一種で、江戸時代から親しまれてきた古典音楽です。かつて日常的なものでしたが昨今は身近に聴く機会がなかなかなく、今回参加された多くのお年寄りにとっても、長唄は「馴染みのない」ものでした。そうした方にも楽しんでもらえるよう、多くのレクチャーコンサートや大学講師としてのキャリアを持つ三味線方の今藤長龍郎さんにご協力いただき、以下の様な工夫をしました。

  • 高齢者に馴染み深い「弁慶」「義経」にまつわる演目を取り入れる
  • 長い曲は高齢者が疲れない程度に短かく抜粋
  • お稽古のようにご一緒に唄う場面を作る
  • 演奏だけでなく、日頃の舞台活動でのエピソードトークも楽しんでもらう

初めての音色に「なんていい音」と涙!

いざコンサートが始まると、冒頭で「長唄は初めて」と身構えていたかたや「三味線音楽は全く知らない」とおっしゃっていた職員のかたも、身を乗り出され、膝で拍子をとる様子が見られました。歌舞伎役者さんの名前が出ると歓声が湧き、「聴こえが悪くて心配」とおっしゃっていたかたも笑顔で聴いてくださいました。

日本古来の発声法はご高齢者にも無理なくご一緒に歌っていただけると唄方の演奏者がアドバイスをし、ご一緒に「長唄 勧進帳」を唄いましたが、職員のかたがびっくりされるほどに大きな声を出して唄っていただきました。

長唄音楽に耳を傾ける利用者のお年寄り
終演後には三味線を触ったり試奏していただく体験の時間を設けました。こわごわ楽器を膝に乗せた途端に笑顔になり「まぁ、意外と重いのね!」「こんなものを触らせてもらえて嬉しいわ」と大きな声で感謝を伝えてくださったり、糸に触れて音が鳴った途端に「なんていい音」と感激で涙を流されたかたもいらっしゃいました。

三味線を触る職員の方々

電気工学の専門家の橋本尚氏は著書「楽器の科学」で

「楽器は美しい器と書く。その字のとおり、一度限りの人生を楽しく豊かにするための道具として、人智をつくして育まれてきた」(「楽器の科学」角笛からシンセサイザーまで 橋本尚著 ブルーバックスより)

と書いておられます。楽器の素晴らしさにも触れ、喜びや驚きを感じていただくのも「音楽の花束」の基本スタイルです。

馴染みがあってもなくても、「すばらしい音楽」は生み出せる!

長唄のコンサートを終えて、職員の方からは「なんといっても入居者のみなさまのほんとうに楽しそうな顔が見られて嬉しかった」と言っていただき、演奏家もGOTOもたいへん嬉しく有り難く思いました。認知症が深い方も驚く程穏やかに同席しておられ、ご家族や職員のかたが一緒に楽しんでくださったこのコンサートは、感動的で忘れられません。

見たことのない、聴いたことのない新しいものに出会う喜びは誰にとっても素晴らしいものですが、日々の生活のなかでさまざまな制約がある高齢者にとって、音楽がもたらすものはとりわけ大きな価値があると感じています。
前述の橋本尚氏は以下のような一文も書いておられます。

音楽とは、空間の魔術を介して、奏者と聴衆との間に生ずるコミュニケーションの産物である。演奏する者と聴くものとがぴたりと心理的にかみ合った場合、そこに最もすばらしい音楽が生まれる」(「楽器の科学」より)

どんな時でもそこが「最もすばらしい音楽が生まれる場」になるように、GOTOは日々楽しく頭を悩ませながら工夫を続けています。
次回も引き続きGOTOの模索のご報告にお付き合いくださいませ。

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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