「拒否」という言葉をやめませんか ~認知症介護現場から~

by カイゴロウカイゴロウ 67761views
拒否という言葉をやめませんか?

「今日はAさんの入浴拒否が激しかった」「Bさんには食事拒否がある」介護施設で働いていると、よく耳にする言葉です。私は、数年前から、この「拒否」という言葉が乱用されていると感じています。介護現場で使われる「拒否」は、本当に「拒否」なのでしょうか。

「拒否」ではなく「意思表示」

そもそも拒否とはどういう意味なのか、辞書で調べてみました。

きょ‐ひ【拒否】
[名](スル)要求や提案を聞き入れないで断ること。拒絶。(広辞苑より)

うーん、なるほど。確かに、私たち介護者の「お風呂に入りましょう」「お薬を飲みましょう」といった提案は、認知症を持つ利用者さんからよく拒まれます。そんな時、「拒否」は介護者にとって、とても便利な言葉です。介護記録に「入浴持の拒否が強く、入浴介助実施せず」と書いておけば、責任を問われる心配もありません。

しかし、「拒否」の状態は、認知症だから意味もなく突発的に起こるのでしょうか?私たち介護者が事前に拒否を防ぐことはできないのでしょうか?そうではないはずです。私が「拒否」の言葉に違和感を持つのは、「拒否=相手側(認知症)の問題で、介護者に責任はない」と捉えられるからです。

私たちが「拒否」と呼んでいるものは、本人にとってはごく普通の「意思表示」です。なぜお風呂に入りたくないのか、レクリエーションに参加したくないのか、その理由に目を向けるのが私たち介護者の仕事ではないでしょうか。

拒む理由は十人十色

例えば、いくら食事をすすめても頑なに食べようとしない男性がいたとします。「食事を拒否された」と諦めてしまえば、その時点で思考停止。しかし、拒否の背景にあるものに目を向けると、見える世界が変わります。

  • お腹がすいていない
  • 食べたいメニューじゃない
  • 胃腸の調子が良くない
  • 誘われた時の態度が気に入らない
  • ただ面倒くさい
  • 誘われた人が苦手なタイプ
  • 食べ物かどうか分からない
  • 食べ方が分からない
  • 食べること以外にやりたいことがある
  • 何となく食べたくない気分

ザッと挙げてみましたが、まだまだ考えられる理由は沢山あります。洗い出してみると、心当たりのあるものがいくつか見つかるはずです。そして、これらは全て認知機能の障害だけで説明できるものではありません。一つひとつの理由をよく眺めると、拒む背景には私たち介護者の関わり方が大きく影響していることが分かります。

「拒否」に代わる言葉で考える

「拒否」という言葉を使わないなら、なんと言えばいいのか。ポイントは、主語を自分(介護者)にすることです。

「Aさんが食事拒否しました」ではなく、
「Aさんを食事に誘ったけれど、食べようとされなかった」

また、誘った介護者側に原因があったことが伝わるものであれば、どんな言葉でもいいと思います。

「拒否」を使わないSOAP形式介護記録

介護記録をつける場合は、「SOAP形式」で書くというテクニックもあります。このSOAP形式を活用すると、「拒否」という言葉は使わなくてもよくなります。記入例は下記の通りです。

S(subjective data) 主観的な情報
 例)食事を勧めるも「食べたくない」と言って箸をつけようとしない
O(objective data) 客観的な情報 
 例)3日間便通なし、昨夜の天ぷらも胸につかえると言って食べていない
A(assessment)課題の分析 
 例)便秘が食欲に影響している、また油っぽいメニューが苦手か
P(plan)計画の作成 
 例)腹部マッサージで便通を促す、油分の少ないメニューに変更する

このように書けば、「拒否」の印象とは程遠くなりますよね。よくある記録では、「食事の声かけに拒否。食事できず」で終わってしまうところです。介護者の工夫次第で、「拒否」という言葉を使わなくても、Aさんの立場で理由を探すことは可能なのです。

さいごに

「拒否」という言葉以外にも、おかしいな、と感じる言葉はまだあります。例えば、「不穏」や「徘徊」。どちらも、介護の世界では当たり前に使われていますが、あくまでも介護者からみた言葉です。認知症の本人から見たら、突っ込みどころ満載なのではないでしょうか。

言葉ひとつで、物事の印象は大きく変わります。人の心に与える影響力は計り知れません。私たち介護者は、自分たちの使う言葉で、利用者を追い詰めていることを自覚すべきです。一緒に、言葉から変えていきませんか。

こんな記事も書きました:認知症を「ニンチ」と略す慣習に終止符を

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カイゴロウ

カイゴロウ

介護福祉士/介護支援専門員/認知症ケア専門士。39歳、宮崎県生まれ。認知症グループホーム、デイサービスでの勤務を経て、ユニット型の特別養護老人ホームでで働く介護福祉士です。趣味のサーフィン。休みの日は大抵海にいます。
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