今、メイクの力で認知症の進行を防止する化粧療法をはじめ、「療法」としてのオシャレの可能性が注目されています。朝、身だしなみを整えると、気分がすっきりしますよね?オシャレをすることは、精神面に大きな影響を及ぼしますが、脳を働かせる効果もあるのです。今回は、オシャレと認知症の関係について考えてみます。
目次
オシャレと要介護リスクの深い関係
昔はオシャレに気を遣っていたはずなのに、歳をとると無頓着になってしまうことはよくあることです。
「外出する予定も特にないし」
「思うように身体が動かない」
「いい歳してオシャレなんて恥ずかしい」
こうした思いから、髪はボサボサ、爪も伸び放題、いつでもすっぴん、着る服はいつでも同じような茶色や黒等の地味服…。身だしなみに気を使わなくなると、人と会いたくなくなります。人と会う機会が減って家にこもるようになると、身体機能も衰え、気分が塞ぎ込みます。外出頻度が下がると、一気にに要介護のリスクが高まります。(参考:虚弱高齢者の外出頻度とその関連要因/日本看護研究学会雑誌 Vol. 32)その結果、認知機能も衰えにもつながるのです。
「化粧療法」で脳を活性化。口腔リハビリの効果も
最近、化粧品メーカーの資生堂から「化粧療法」というものが開発されました。化粧療法とは、化粧のもたらす心理的効果を活用して、高齢者の“ADL(日常生活動作)”を維持・向上するセラピー。メイクアップやスキンケア、ヘアケア等のサービスを受けることで、心身に様々な変化が起こります。(参考:化粧療法の効果/資生堂)
脳への刺激
化粧をして綺麗になった自分を見ると、気持ちが“ときめき”ます。これは、快楽や快感を生み出す脳内物質である“ドーパミン”が分泌されている証拠。結果、ストレスホルモンが減り、脳波を正常に整えてくれます。資生堂は、化粧療法を実施した方が、未実施のグループに較べて、3ヶ月後の認知機能の低下が少なかったという研究結果を発表しています。
心への刺激
化粧をすると、自分に自信が持てるようになり、人と会う意欲が芽生えます。人と会ってコミュニケーションを取ることで「楽しい」という感情が生まれます。こうしたポジティブな心への刺激は、表情をやわらかくし、生きがい(主観的幸福感)を高めてくれます。
身体への刺激
化粧をすることは、物理的に腕や指先を動かす運動にもつながります。化粧に必要な動作は、食事に必要な動作よりも約2~3倍の筋力を使うとのこと。中でも、眉メイクは、化粧動作の中で最も肩の筋力を使うことになり、筋力維持に役立つそうです。3ヵ月継続した結果、握力が向上したという結果も発表されています。
口腔への刺激
化粧をする中で肌をパッティングしたり撫でたりすることで、唾液腺へのマッサージ効果やリラックス効果が影響し、唾液の分泌促進につながります。人は年齡とともに唾液の分泌量が減り、嚥下機能も弱まってしまいがちです。唾液が分泌されることで、言葉もよく出るようになり、口腔リハビリにもなります。
—
ある介護老人保健施設では、化粧療法を取り入れたことで、利用者さんの徘徊の頻度や、夜間のナースコールが減ったとのこと。こうした効果が、全国の介護施設で注目され、アクティビティーとして取り入れる施設も増えているようです。
オシャレは周りの人も明るくする
お化粧以外にも、お年寄りがオシャレをすることの効果を感じる場面がいくつもありました。ほとんどの認知症の利用者さんは、最初にご家族に連れてこられる時、不安いっぱいの厳しい症状で来られます。入浴も着替えも億劫になって、家にこもりきりだったという方も少なくありません。
しかし、通い初めて周りがみえてくると、同じ利用者さんがオシャレをしていることに気が付きます。節感のあるショールを巻いていたり、色鮮やかな口紅をしていたり…。そうすると、「自分もやってみようかな」という気持ちが芽生えるようで、次に来られる時はいつもより華やかな洋服に身を包み、表情も明るくなっていたりします。オシャレは、周りに伝染する効果もあるのですね。
お年寄りも取り入れやすいオシャレのアイテム
オシャレといわれても、何から手を付けていいのか分からない…、という方もいらっしゃると思います。しかし、高齢者のオシャレのアイテムは、意外と多いのです。
- 杖
-
歩行をサポートする杖も、昔は黒や茶色など地味な色が多かったですが、最近では色々なバリエーションが増えました。色も、柄も、形も、カラフルで素敵なものがたくさんあります。 - 帽子
-
目立ってきた白髪や、薄くなってきた髪の毛を隠すのに、帽子も素敵なアイテムです。季節に合わせて、洋服に合わせて、いくつかあると便利ですね。
- スカーフ、マフラー
-
また、首元に何かあると、暖かさを感じますし、個性も出せます。柔らかくて軽いスカーフや、冬に向けてマフラーや若い人のスヌードのようなものも便利で使いやすいでしょう。
オシャレは、女性だけのものではなく、男性も十分楽しめます。男性は、帽子やコート、マフラーなど少し凝ったものを好まれる方が多いです。スーツやゴルフなどで、オシャレなものを身に付けられていた世代の方は、女性以上に楽しまれていて、見ていてとても素敵です。
プレゼントする、褒める、外に連れ出す…介護家族ができること
オシャレの力を借りるには、ご家族や、身近にいる介護者の協力が欠かせません。
ご家族が新しい洋服を買い足そうとしても、ご本人は、タンスにたくさんある服をみて「もう先が短いのに、新しいものを買うなんてもったいない」と断る、というケースはよく聞きます。でも、それは本心ではない場合が多いと思います。誰にでも「若々しくありたい」という思いはあります。新しくて素敵なものを身につければ、気持ちは華やぎます。是非、似合いそうな洋服があればプレゼントしてみてください。その際、いつもと違う、綺麗な色も取りれてみましょう。
また、買い物でも、旅行でも、通院でも、出かける機会をつくることは、オシャレする機会をつくることでもあります。「一緒に○○に行こう」と誘ってみてください。少しずつ新しいものを身につけることに慣れてくると、女性ならお化粧の回数が増えたり、香水をつけてみたくなったりします。家から出なかった方が、笑顔も増えて、行動範囲が広がります。「そのスカーフ素敵ですね」と会話が弾むきっかけにもなるでしょう。
「洋服なんていっぱいあるから」と割り切るのではなく、ご本人が自信を持てるように。是非、ご家族の方も一緒に楽しんでオシャレのサポートをしてみてください。

いのうえひとみ

最新記事 by いのうえひとみ (全て見る)
- 「受け入れられない…」介護家族の苦悩について介護従事者が語る - 2016/5/19
- 歩けなくならないよう予防を!認知症高齢者のフットケアについて - 2016/4/5
- 認知症になっても趣味を続けてもらうための3つのコツ - 2016/3/1
編集部おすすめ記事
この記事を読んだ人にぜひ読んでほしい、その他の記事