認知症看護認定看護師の市村です。認知症を持つ人が「食べない」、「食べられない」というのは、多くの介護者が頭を抱える悩みの一つ。認知症は、食べ物を口に運ぶ「摂食」機能と、口に入れた食べ物を飲み込む「嚥下」機能が衰える原因になります。
この摂食・嚥下障害の進行過程、認知症の病型によって異なるのをご存知でしょうか?今回は、「認知症と食事」における病型ごとの特徴と、食事援助のポイントについて考えてみたいと思います。
知っておこう!摂食・嚥下のメカニズム
「食べない」、「食べられない」という状態と向き合う時、まずは、摂食・嚥下の動作のうち、どこのプロセスに問題があるのかを見極めることが大切です。ものを食べて飲み込む、というのは、一見すると、とてもシンプルな行為ですが、そこには様々なプロセスが存在しています。このプロセスは、『摂食・運動の5期モデル』と呼ばれます。
- 先行期:目の前のものを食べ物であると脳が認識する。どのように食べるか考える
- 準備期:食べ物を口に入れて噛む。口の中で飲み込みやすい形にまとめる
- 口腔期:食べ物を舌を使って喉に送り込む
- 咽頭期:食べ物を飲み込む
- 食道期:飲み込んだものを食道から胃に送る
(Leopoldの摂食・運動の5期モデルより)
これらの一連の動きは、通常、ほんの一瞬のうちに起こるものです。このいずれかの段階、あるいは複数の段階で何らかの問題が発生する状態が、摂食・嚥下障害です。
認知症の病型別!食事困難の特徴と援助のポイント
四大認知症と呼ばれる、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症それぞれで、食事困難の特徴と介助する際の注意点をまとめます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の場合は「先行期」や「準備期」の障害から出現してきます。前頭葉や側頭葉の萎縮によっておこる記憶障害や集中力の低下、失認や失行と呼ばれる中核症状が背景になっています。脳血管障害などの合併症がない場合、アルツハイマー型認知症では咀嚼・嚥下機能は比較的後期まで維持される傾向があります。
アルツハイマー型認知症におこりやすい食事の障害
・食事だと認識できず食べ始めることができない(失認)
・箸やスプーンなどを上手く使うことができない(失行)
・途中で食べるのをやめてしまう(集中力の低下)
・食べたことを忘れる(記憶障害)
食事援助のポイント
・食事開始のきっかけをつくる
→左手にお茶碗、右手に箸やスプーンを持ってもらう(利き手に合わせて)
→最初の数口は介助をする
・テレビなどの騒音で気が散らないように注意す
・混乱するようであれば食器の数を減らす(ワンプレートにするなど)
アルツハイマー型認知症の場合は、初期から中期は「食事開始の障害」と「食事を継続することの障害」が目立ち、後期になると少しずつ嚥下にも障害が出てきます。BPSD(行動・心理症状)で食事拒否が出る方がいますが、そのような方への対応はまた別の記事でお伝えしたいと思います。
脳血管性認知症
脳血管性認知症の場合は、脳のどこに病変があるのかにもよりますが、食事摂取に何らかの障害をもっている方が多いです。脳梗塞で麻痺がある場合は箸やスプーンをもつことが難しい場合は「準備期」の障害がありますし、また口や喉に麻痺が残ってしまった場合は「口腔期」「咽頭期」の障害があります。
脳血管型認知症におこりやすい食事の障害
・手の麻痺によって箸やスプーンが使えない、使いにくい
・唇の麻痺によって口が開かない、閉じない
・唇や咽頭の障害によって飲み込めない
・片手しか使用できない場合食器をおさえることができず食べにくい
食事援助のポイント
・自助具を活用する
・食器を工夫する
・食器が滑らないように滑りとめマットなどを活用する
・麻痺の状態に合わせた体位の調整をする
脳血管性認知症の場合はとくに障害の内容や程度に個人差が大きいのでよく観察することが大切です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症では、前頭葉の萎縮による脱抑制などによって初期では食事そのものよりも食事習慣の変化が起こります。進行するにつれて「準備期」「口腔期」にも障害が出てきます。前頭側頭型認知症の場合は、アルツハイマー型認知症と同じように他の疾患がなければ咀嚼・嚥下機能は比較的保たれます。
前頭側頭型認知症におこりやすい食事の障害
・毎日同じものを食べ続ける
・甘い食べ物に固着する
・過食や早食いをする
・人の食事を食べてしまう
・食事の途中でも他に気になることがあるとどこかへ行ってしまう
食事援助のポイント
・窒息に注意する
・他の人の食事を食べてしまわないように場所の配慮をする
・注意が他に向いてしまわないような環境を整える
前頭側頭型認知症の場合は、本人には悪気はなくても他の人の食事を食べてしまったり、手で食べてしまったりなどの行動があるため病院や介護施設ではトラブルになるケースも少なくありません。席などの食事環境への配慮も必要です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は他の変性性疾患(アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症)と比較すると早期から嚥下機能の低下が出現しやすい傾向があります。日内変動があるのがこの認知症の特徴なため、時間帯によっても食事の行動が変わります。また後頭葉の障害によって幻視や空間認知の障害がおこり物体との距離感がうまくつかめなかったり、箸やスプーンが歪んで見えたりすることがあります。また幻視や幻覚などの症状が食事に影響を与えることがあります。
レビー小体型認知症におこりやすい食事の障害
・食べ物をうまくつかめない
・手の振るえによってスプーンや箸などから食べ物が落ちてしまう
・むせこみやすい
・「口の中がなにかおかしい」などの体感的な幻覚を訴えることがある
・食べ物に虫が入っているようにみえる
食事援助のポイント
・日内変動のよい時間帯に合わせる
・誤嚥や窒息に注意する
・幻視などの訴えが強い場合は無理をせず落ち着いてから食事を提供する
レビー小体型認知症では認知症の影響だけでなくパーキンソン症状の影響も考慮しなくてはいけません。他の認知症と比較して対応の難しさを筆者は感じています。
薬の副作用で起こる「薬剤性嚥下障害」に要注意!
認知症をもつ方はなんらかのお薬を飲んでいる方が多いと思いますが、「薬剤性嚥下障害」と呼ばれる薬の副作用によっておこる嚥下障害があります。抗精神病薬や抗うつ剤などは嚥下障害が出やすく、レビー小体型認知症の方は副作用が出やすいのでとくに注意が必要です。一部の降圧剤や抗ヒスタミン剤などでもおこることがありますので、飲んでいるお薬が変更になったり追加になったりした場合はよく観察をして気になることがあった場合は主治医にはやめに相談するようにして下さい。
最後までお読みいただいてありがとうございます。同じ「認知症」でも認知症の種類によって違いがあることを知っておくと、食事援助のポイントや今後の予測、なぜこのような行動をとるのか感がるヒントになると思います。参考にしていただけると嬉しいです。


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