「ドラえもん」の声の主として、長い間愛されてきた声優・大山のぶ代さん(82歳)が認知症と診断されたというニュースは、多くの人々に衝撃を与えました。「娘になった妻、のぶ代へ」は、のぶ代さんの夫、砂川啓介さん(78歳)による認知症介護の日々の記録をまとめた一冊。本書は、2015年10月の発売以来、Amazonの介護部門で連続して1位を獲得、予約時点で既に10万部の売上を突破したベストセラーとなりました。今回は、この注目の書籍の読みどころについて、ご紹介します!
突然始まった老老介護。夫の葛藤を描く
2012年秋、しっかり者の姉さん女房だった妻が、認知症と診断された―。
ドラえもんだった自分を忘れてしまった妻、大山のぶ代と、妻の介護に徐々に追いつめられる夫、砂川啓介。おしどり夫婦と呼ばれた2人の日々は、今も昔も困難の連続だった……。全国460万人以上の認知症患者とその家族へ綴る、老老介護の壮絶秘話!(双葉社公式サイトより)
自他共認める“おしどり夫婦”として、二人きりで暮らしてきた、のぶ代さんと砂川さんご夫妻。ある日、医師からのぶ代さんが告げられたのは、アルツハイマー型認知症という診断でした。
料理上手だった妻が突然、何も作れなくなる。ふいに家を飛び出し、タクシーに乗って行方不明になる。気性が荒くなり、些細なことに大声で怒り出す。夜中に幻覚を見る。お風呂に入らなくなる。廊下で排便をする――、次々と現れる症状に戸惑う砂川さんの心境が生々しく綴られます。
逃げられるものなら、この生活から逃げたい。
ドラえもんのように「どこでもドア」で、遠くへ行ってしまいたい。でも、僕はカミさんにとって、たった一人の身内なのだ。「俺が頑張らなきゃいけないんだ…」
今、日本で介護が必要な65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、介護者も65歳以上となる「老老介護」の割合は51.2%。年々増え続けています。歳を重ね、自身の体調も決して万全ではない介護者が、24時間介護をつきっきりで抱え込み、追いつめられていく…本書からは、老老介護の現実が伺えます。
「感動した」「泣いた」読者からの共感の声
本書には、読者からの「老老介護の大変さに共感した」、「これからの介護について考えさせられた」、「夫婦の絆に感動した」といった、多くの反響が寄せられています。
「娘になった妻、のぶ代へ」
夫の砂川啓介さんが著書で、ドラえもんの声を担当してた大山のぶ代さんの認知症看護を綴った本。認知症患者と関わる機会が多かった実習後に読んだから、介護者の気持ちがひしひしと伝わってきて、ほんまに考えさせられる。自分の親がならないなんて言い切れんもんね。
— むー (@ribon_cat) 2015, 11月 14
今、「娘になった妻、のぶ代へ」を読んだ。認知症になった大山のぶ代さんと、介護を続ける砂川啓介さんの本。やばい。色々な意味で泣きそう。これはあらゆる人が一読するべき本だ。特に、旧ドラえもんやダンガンロンパが好きな人、のぶ代さんの声が好きな人は、読んでも損はないと思う。
— かすがかけるP(ぬこ) (@cozmixxx) 2015, 11月 12
「娘になった妻、のぶ代へ」砂川啓介
読了。
認知症を公表したドラえもん役の声優大山のぶ代さんの介護の話をまとめた、旦那さんの書いた本。
前半はほんと辛いことばかりで涙が止まらなかったんだけど、認知症を公表した所から急に光が射して。 pic.twitter.com/rrNSM8Nohe
— うぃき (@wamtst) 2015, 10月 26
自己流介護の「危うさ」を垣間みる一面も
「勇気を与えられた」、「感動した」という感想が寄せられる一方で、本書からは、手探りで自己流の介護を進めることの「危うさ」もいくつか見受けられます。例えば、次のようなところです。
1日2箱のタバコ、美味しさ最優先の食生活
「脳梗塞で倒れる前は一日2箱吸うほどのヘビースモーカー」で、「美味しい物に目がない食道楽」でもあったというのぶ代さん。
これらの生活習慣が、のぶ代さんが認知症を発症する引き金となった脳梗塞に、大きな影響を与えた可能性は否定できません。本書では、「将来、ボケないように」と40代から夫婦でしりとり漢字の書き取りをして脳を鍛えていた、と書かれていますが、まずは日々の生活習慣を見直すことの大切さを痛感させられます。
自己判断で薬をコントロールする危険
認知症の改善方法を手探りで求めたことが書かれた章の中では、薬の使い方にも言及しています。
僕が試したのは、まずカミさんが飲んでいた薬の量を減らすこと。ある本に「薬の飲みすぎは身体に良くない」と書いてあったのを読んだからだ。(本書163ページより)
認知症で処方される薬の扱いは、非常にデリケートな問題です。今回砂川さんは、医師と相談して薬の処方を止めてもらった結果、のぶ代さんの怒りっぽい症状が改善されたと書かれています。
ただ、この方法を安易に真似をするのは危険です。自己判断で薬の加減することは、認知症の症状悪化を招くリスクも大きいためです。処方薬については、必ず医師と相談し、家族の側も十分勉強して進める必要があります。
介護サービスを信用せず頼らない危うさ
「大山のぶ代のイメージを壊してはいけない」と、砂川さんはのぶ代さんが認知症であるという事実を周囲にひた隠しにします。
ヘルパーさんは大便の世話までしてくれるのか?足腰が弱り自宅に住むことが困難になったら、介護施設にはすぐ入居できるだろうか?少し想像するだけで、身震いするほど恐ろしくなる。(本書188ページより)
彼女を介護施設に預ける気にはなれなかった。(中略)他の入居者から「大山のぶ代が来たぞ」と見せ物にされ、騒がれるかもしれない。(本書128ページより)
誰にも相談せず、一人で悪い想像を巡らせて、自ら介護サービスの可能性を遮断します。実際には、介護のプロであるヘルパーであれば、大便の処理はもちろん、入浴・調理等の生活のお世話は問題ありません。また、介護施設にすぐ入居したいのであれば、いくつか見学して希望に合うところに先に申し込んでおく、という手もあります。有名人でも特別視せず、過ごしやすい工夫を施している施設も沢山あります。
区役所や地域包括支援センターに足を運び、のぶ代さんを家の外に出すきっかけを作ることで、もっと早く認知症の症状改善につながった可能性はあります。
周囲に認知症をオープンにすることの大切さ
妻の介護でどんどん疲弊していく日々――そんな砂川さんが少しずつ前向きになれたきっかけは、ラジオでの公表でした。のぶ代さんの認知症をカミングアウトしたことで、風向きが変わり、砂川さん自身も大きく変わったといいます。
- 多くの励ましの声に励まされた
- 『もう嘘をつかなくていい』という安堵感が生まれた
- のぶ代さんに声を荒げなく鳴った
- 美容院に連れて行きオシャレに気を配るようになった
- 容姿を褒めるようになった
- のぶ代さんの仕事復帰が実現した
- カラオケでの音楽療法をはじめた
- のぶ代さんが“できること”に目を向けるようになった
認知症を隠すプレッシャーから解放されたのをきっかけに、砂川さんは徐々に前向きになり、徐々に元気を取り戻します。そして、砂川さんの変化に呼応するようにのぶ代さんも明るくなっていく様子が書かれています。認知症の症状を悪化させ、本人を苦しめていたのは、周囲の無理解とアウェイな環境だったのだと、改めて考えさせられます。
さいごに
大山のぶ代さんが声を担当する「ドラえもん」に慣れ親しんできた中心世代は、現在40~50代。身内の介護が現実味を帯びてくる年代で、すでに認知症の家族を介護している方も多くいます。
「ドラえもん」は、かつて子どもだった私たちに夢や希望を教えてくれました。この本を通して、多くの人が認知症との向き合い方を考え、介護への心構えを整えることができれば、のぶ代さん・砂川さんご夫婦の辛かった経験も報われるのではないでしょうか。

認知症ONLINE 編集部

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