「一度は見学してみたい高齢者住宅」として、いま介護業界で注目を集めている『銀木犀(ぎんもくせい)』をご存知でしょうか?銀木犀は、首都圏6箇所で展開するサービス付き高齢者向け住宅。介護予防から看取りまで行う、お年寄りのための終の住処です。
銀木犀が手掛ける介護プログラムは、どれもとてもユニーク。駄菓子屋の併設に、脳科学に基づくドラム即興プログラム、クラフトワークプロジェクト等、いままでの「高齢者住宅」の概念を打ち破る取り組みを次々と仕掛けています。今年シンガポールで開催されたアジア太平洋高齢者ケア・イノベーション・アワード2015では、大賞を受賞。入居者の自立支援と地域連携を促す活動は、海外からも高く評価されています。
今回は、これらの革新的な取り組みの仕掛け人である下河原忠道さん(株式会社シルバーウッド 代表取締役)に、日本の高齢者住宅のあるべき姿について、お話を伺いました!
目次
脱・お世話型介護。「自分らしく」暮らせる場所を
――銀木犀さんにお邪魔して、まず驚いたのが香りです。高齢者施設特有のツンとした匂いがなくて、真っ先に木のいい香りが広がりますね。
床はヒノキの無垢材を使っています。一般的には「滑りやすいから」とまず採用されませんよね。
――観葉植物や生花も、なかなか介護施設では置かれませんよね。
「認知症の利用者が葉っぱを食べてしまわないように」とかいってね、置かないんですよね。いやいや待てよ、と(笑)。誰だって、自然の欠片もない、造花だらけの家に住みたくないでしょう。

――居心地の良い空間を重視されているのですね。でも実際、危ないことはないですか?
もちろん、リスクはありますよ。うちには認知症と共に生きる入居者さんも大勢いますから。でも、リスクを完璧に排除してしまったら、不自然で人工的な空間になります。入居者の自主性も奪いかねない。うちでは、少々危なくても、歩く力がある人には、歩いてもらいますし、配膳や洗濯等、自分でできることは何でもしてもらいます。施設に入った途端、移動は全部車椅子、食事もトイレも何もかも上げ膳据え膳の「お世話」をされていたら、一気にボケますよ。大切なのは、できることを取り上げないことだと思います。
――入居者さんのご家族はどんな反応ですか?
入居前に、必ずご家族にもご説明するんです。「うちでは、本人の自立を支えるケアを最大限頑張ります。ただ、時には転倒などのリスクも伴います。それでも良いですか?」と。中にはご賛同いただけないこともあります。考え方は人それぞれだから、仕方がないことです。でも、うちに入居してから元気になっていく人は本当に多いですよ。
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大人が本気で楽しめるプログラムじゃないと意味がない
――銀木犀さんは、独自の認知症予防改善プログラムにも力を入れていると伺いました。
はい。元々、算数や国語のドリルを使って脳を活性化する学習療法も取り入れていたんですが、もっと楽しく皆でワイワイやれるプログラムがあればいいな、と思っていました。それで、「脳トレ」の生みの親として有名な東北大学の川島教授に相談して生まれたのが、ドラムコミュニケーションプログラムです。
――ドラムコミュニケーションプログラムというと?
参加者全員がいろんな形のドラムを持って、ファシリテーターのリードのもと、即興で音楽を奏でるプログラムです。太鼓なんて皆さん触ったことないので、はじめは恐る恐るですよ。でも慣れると、次第に気持ちが解放されて、思い思いのリズムで太鼓を叩き、それが折り重なって一つの音になっていくんです。こうした経験すると、脳血流が盛んになり、脳活動が活発化するのですが、何より一体感が気持ちいいんですよね。重度と呼ばれる認知症で、ふだんは無表情の人も、楽しそうに太鼓を叩くんです。これは年に数回の特別なイベントじゃないですよ。住宅にも寄りますが、多いところで週に3回、日常的に叩いています。
▼ある日の銀木犀のドラムコミュニケーション動画(50秒)
――皆さん本当にイキイキされていますね。認知症に限らず、大人から子どもまで楽しめそうです。
そう!大人が本気で楽しめるかどうか、そこが肝心なんです。楽しくなければ自主性は発生しないし、予防改善プログラムの効果も得られません。僕は昔から、「レクリエーション」という言葉が苦手でした。大して打ち込めもしない塗り絵だったり、幼稚園児に童謡を歌わせて、お年寄りをズラーッと並べて鑑賞させたり。彼らは人生の大先輩だというのに、まるで“何もできない人”扱いしていると思いませんか?心から打ち込めるものや、社会とつながれるものでないと、やる意味がないと思っています。
――確かに、ドラムの他にも、陶芸や手芸・工作、ダンス等、本格的なプログラムをされていますね。
どれも、単なるレクリエーションの域にとどまらないようにしています。手芸や工作は「クラフトワークプロジェクト」と呼んでいて、作った革製品やミニ盆栽は商品化を目指します。どうせ作るなら、子ども騙しのようなものではなくて、大人が本当に欲しいと思えるような素敵なものを作って、販売する。その方が楽しいですからね。

利用者のお年寄りが店番の駄菓子屋。世代間交流が自然に生まれる
――施設の一角が駄菓子屋になっているのもユニークですね。
駄菓子屋は、世代を超えた交流が生まれるきっかけになればと思って併設しました。毎日夕方になると、放課後の小学生や幼稚園に通うお子さんを連れた親御さんが遊びにきて、繁盛していますよ。多い時は1日50人程来客があり、1万円近く売り上げます。今後展開する銀木犀には、すべて駄菓子屋を併設する予定です。
――駄菓子屋で1日1万円!すごいですね。店番をしているのは入居者さんですか?
そうです。銀木犀 西新井大師の場合、店長は入居者の84歳の男性です。入居した時は要介護度5だったのですが、毎日店頭に立っているうちに段々と元気になって、今では歩行器を自分の手で持ち運んでしまう位、ピンピンしています。彼はアルツハイマー型認知症でもあるのですが、計算は子ども達が手伝ってくれますし、お店の運営に問題はありません。無邪気な子ども達が遊びにくると、住宅の空気も明るくなりますね。

――地域の人との交流にも力を入れているのですね。
はい、季節のお祭りも地域の人と顔を合わせる大事なイベントです。今年9月に銀木犀 鎌ヶ谷で行われた、「ぎんもくせい祭り」では、推計500名以上の地域住民のみなさんが集まってくれました。入居者も、入居者家族も、地域の子ども達も、社会福祉協議会も、町内会も自治会も、年齡も所属している場所も飛び越えて、皆で力を合わせてひとつのイベントを作るのっていいですよ。

――入居者のお年寄りも出店したりするんでしょうか?
もちろん。入居者のみなさんには、屋台の店番を任せたり、手作りの盆栽を売ったり、主催者側として活躍してもらいました。生きる上で、役割を持つこと、誰かに頼られることは、何よりの活力になりますからね。参加者した地域の人から「ありがとう」と言われると、とても嬉しそうですよ。こうした交流を通して、地域の方にも銀木犀を知ってもらうことで、介護に困ったときの相談先として頼っていただいたり、ギブ&テイクの関係が生まれています。

将来は、多世代が暮らす「ごちゃまぜ住宅」を目指す
――アジア太平洋高齢者ケア・イノベーション・アワード2015で大賞を受賞される等、銀木犀の取り組みは世界からも注目が集まっています。今後、目指したいことを教えていただけますか?
これまで、日本は介護先進国と言われる欧米の背中を必死に追いかけてきました。けれど、今では日本の介護現場にも多くの注目すべきリーダーが登場しています。今度は、世界から日本の介護が注目される番だと感じます。これから必要なのは、優れたケアの技術やケアプログラムを、きちんと言語化していくこと。属人的なものにせず、誰でも使えるパターン・ランゲージに落とし込むことで、日本全体で介護の質を高めていけると思います。
――今後、銀木犀としてはどう進化していくのでしょうか?
最終的には、高齢者だけでなくて、いろんな世代が一緒に暮らす、「ごちゃまぜ住宅」を目指したいと思っています。シングルマザーや、その子ども、就業先を探しているニートと呼ばれる若者や、障害者等々、色んな立場の人と、おじいちゃんおばあちゃんが一緒に住む。そうすることで、もっと色々なコミュニケーションが生まれて、良い相乗効果になるはずです。核家族が増えて、地域の多世代交流が難しくなっている今だからこそ、社会にも価値が発揮できるんじゃないかと思っています。
▼下河原さんの新たな取組み「VR認知症」を知る
VR認知症体験会は社会を変える!
★今回お話を伺った方
●下河原 忠道(しもがわら ただみち)さん
1971年、東京都生まれ。1992年より父親の経営する鉄鋼会社に入社。1998年に単身渡米し、薄板鋼板の建築工法を学び、2000年シルバーウッドを設立。2005年に初めて高齢者向け住宅工事を受注したのを機に、高齢者向け住宅・施設の企画・開発事業を開始。2011年7月、千葉県にて、自らサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)「銀木犀<鎌ヶ谷>」を開設。現在銀木犀シリーズを6棟直轄運営。介護予防から看取りまで行う終の住処づくりを目指し、「暮らしを楽しみ、安心して死を迎えられる場所」としてのサ高住を追求する。一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会理事も務める。
銀木犀 公式サイト
twitter @tadamichi_shimo

認知症ONLINE 編集部

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