「買い物療法」をご存知でしょうか?ストレスが溜まったり気分が塞ぎこんだ時に買い物をすると、なぜか気持ちがすっきりする…という経験、ありますよね。今、認知症の予防や進行防止、リハビリに、「買い物」を使ったセラピーが注目を集めています。私が勤めていたデイサービスでも、日々の活動に買い物を取り入れていました。今回は、買い物療法の効果と、上手な取り入れ方をご紹介します!
買い物療法とは?
買い物療法とは、認知行動療法のひとつ。買い物を通して、足腰を鍛え、脳の認知機能を刺激します。たかが買い物…とあなどってはいけません。買い物は、最強のリハビリメニューのひとつです。例えば、今晩の夕食の買い物。一連の行為を紐解くと…
- 買いたいものをリストアップして目的を決める
- 目的に応じたお店を選ぶ
- お店までの行き方を考える
- 歩きor車or自転車or電車でお店に行く
- 周囲の人に注意して店内を歩く
- 今晩のメニューを考えながら商品を選ぶ
- 限られた予算内で買える商品を選ぶ
- 旬のものが並ぶ商品から季節を感じる
- 会計時は財布から必要なお金を出す
ざっと、これくらいの活動をしています。
これらは、介護施設内のリハビリ訓練室では体験することができない要素がもりだくさん。日々の暮らしに密着したリハビリなのです。
買い物療法はどんな効果があるの?
買い物が最強のリハビリメニューといわれる背景には、その効果の大きさがあります。そのいくつかを、ご紹介します。
歩行による筋力アップ!
お店にたどり着くまで、お店を散策するにも、移動手段の基本は「歩行」。歩くことは、足腰を鍛えてくれるばかりではありません。新しい認知症ケアとして世界中で注目を集めているユマニチュード®でも、「自分の足で立つことは人の尊厳を自覚する行為」として、最低1日20分は立つことを目指しています。買い物の過程で、筋力と自信を保つことができるのです。
参考記事:魔法みたいな認知症ケア「ユマニチュード®」って?
参考記事:なぜ、「歩くこと」が認知症予防につながるのか?
適切な判断能力を訓練!
買い物には、様々な物理的ハードルが伴います。お店にたどり着く道中の坂道や、店内のちょっとした段差、店内を走り回る子どもたち…。つまづかないよう歩いたり、障害物を避けたりして、これらを乗り越えることは、認知機能を刺激し、適切な判断能力を保つ訓練になります。もちろん、同行者がきちんと見守り、必要に応じて介助する必要があります。
商品を見る・比べる・吟味することで、脳を刺激!
お店に陳列された旬の野菜や魚など、季節を感じるラインナップは、脳の見当識を刺激します。家に足りないものを思い浮かべたり、食材の組み合わせを考えたりもするでしょう。商品の品質や価格を比較することも、所持金を把握して合計金額を計算することも、十分な脳の刺激になります。
買い物終了時には、ほどよい達成感も
要支援や要介護状態になると、普段人にお世話されるばかりで、「誰かに物を頼まれる」機会は少なくなります。人は誰からも頼りにされないと居場所がなくなり、元気も失ってしまうものです。買い物は、そうした点で頼られる機会をつくるチャンス。家族に頼まれたものを買うことができた、という行為は、気持ちにハリを与え、達成感につながります。
認知症の人との買い物で注意すべきポイント
認知症の人と一緒にお買い物をするにあたって、気を配っておきたいポイントがいくつかあります。
事前に本人の好みや消費行動パターンを知ろう
どのような方にも、今まで生きてこられた背景があります。ご家族もサポートする方も、今一度、ご本人がどんな生活をされてきたのか、考える事が大切です。生活に苦労されて、お金を使うことに罪悪感がある場合もあれば、気前よく人におごってあげるのが好きな場合もあります。そうすることで、満足度の高いお店選びや、スムーズな誘導ができます。
すでに同じ物を買い貯めてないかチェック!
認知症で記憶機能が衰えると、“同じものや不必要なものを何個も買い込む”ケースがよく見られます。例えば今回の買い物でチョコレートを買う場合、冷蔵庫や棚にすでにチョコレートが何枚も眠っていないか、事前に確認しておくと安心です。
予算を事前に決めて、金銭トラブルを予防
たまにだから、好きなものでもと言われても、お金にまつわることはトラブルの元。事前に本人、ご家族、介護のキーパーソンと話し合って、予算を決めておきましょう。
行き先に休める場所はある?バリアフリーは?
行きたいお店を決める時、休憩できるベンチなどはあるか、歩きやすい環境かどうか、事前に考えておくといいでしょう。最近よく見かける、ショッピングモールのようなところは、休める場所も多く、またトイレも工夫されていて、何かあったときは、多目的用のお手洗いを広く使えて快適なので、おすすめです。
こまめな水分補給と排泄への心配りも忘れずに!
買い物に夢中になると、思いのほか歩いていたり、水分を取ることも忘れてしまいがちです。特にこれからの季節、室内は暖房も効いていて乾燥します。水分補給や疲労度を常にチェックし、トイレも、まめに声をかけたり、様子を見たりしながら、早めにゆとりを持っていけるようにしていきましょう。デパート等の施設には車いすも借りられます。
介護者はでしゃばらず、「見守る」姿勢を
買い物療法の大きな目的は“リハビリ”です。介護者は、出来る限り本人の自主性を尊重しましょう。お会計時の計算や、商品がどうしても見つからない等、本人がうまくできなくなっている部分だけをサポートすると良いと思います。
さあ、財布を持って町に出かけよう!
いかがでしょうか。買い物がいかに実践的なリハビリかを感じていただけたのではないでしょうか。室内で脳トレドリルと向き合うのも良いですが、一歩外に出ることで、見える世界も広がりますし、何より「楽しく」体と頭を動かせます。ぜひ、試してみてくださいね。

いのうえひとみ

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