【認知症のホンネ対談】医師と患者家族の信頼関係、どうつくる?

医師と家族のホンネ対談

認知症と付き合っていく上で、信頼できる医師との出会いは非常に大切なことです。しかし残念なことに、信頼できる医師と巡り会えず悩んでいる認知症のご本人や介護家族はたくさん存在します。認知症診療の現場で、医師と患者側の信頼関係はどうすれば築けるのか―――今回、認知症診療に積極的に取り組まれている、ものがたり診療所もりおかの松嶋大さんと、その患者家族であるくどひろさんが、医師と患者家族のイイ関係について、本音でたっぷり語り合います!

【プロフィール紹介】

対談者プロフィール
■医師:松嶋大(写真右)
ものがたり診療所もりおか所長。医学博士。2000年岩手医科大学医学部卒業。自治医科大学病院での初期研修を経て、新潟、岩手、沖縄で地域医療に従事。2009年自治医大大学院卒業。藤沢町民病院などを経て2015年4月より現職。自治医大臨床講師を兼任。専門は総合診療。認知症と在宅医療を得意とし積極的に取り組んでいる。

■患者家族:くどひろ(写真左)
認知症の母を遠距離介護する介護家族で、息子介護ブロガー。認知症ONLINEでは「くどひろ」のペンネームで認知症介護コラムを連載中。ものがたり診療所には、3年前から患者家族として母親と共に月1回のペースで通院している。工藤広伸の名前で書いた著書「医者には書けない!認知症介護を後悔しないための54の心得(廣済堂出版)」10/28より発売中!

医者に求めるのは「傾聴力」!認知症では、特に大事。

患者家族・くどひろ

正直、松嶋先生に出会うまでは、病院ジプシーでした(笑)。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
病院ジプシー、というと?
患者家族・くどひろ

信頼できる医師に巡りあえず困っていたんです。これまで3回病院を変えたんですが、出会った医師は、とにかく患者側の話を聞いてくれない。診察室で1分間話ができればありがたい!という感じでした。かろうじて話せたと思っても、「私は薬を出すぐらいしかできませんから」とキッパリ言われたり。結局、症状や心配していることを上手く伝えられず、治療の内容にも不満が残っていました。

そして、認知症の自覚がない母は、とにかく病院に行きたがらない。せめて私ひとりでも相談したい、と足を運んでも、「本人がこなけりゃ意味ないでしょ」と冷たく診察拒否をされ…。もの忘れ外来の入口には『なんでも気軽にご相談ください♡』なんて看板が掲げてあるのに、全然違うじゃん、と思っていました。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
私のところには、くどひろさんのように病院ジプシーだった方がよく辿り着かれますよ。認知症の場合は、薬の副作用がひどい状態で来院される方も多い。もっと早く診たかったと思うこともしばしばあります。
患者家族・くどひろ

先生の診療所は、とにかく話を聞いてくれますよね。傾聴力に溢れている。家族としては、それが一番救われます。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
患者さんのお話を聞かないと、始まりませんからね。認知症は、他の病気とは少し違って、本人や家族との「会話」が特に大切です。普段は認知症の症状が激しく出ている方でも、医師の前では気を張って急にシャンとする人も多いですし。

MRIやCTだけでは分からない部分も多く、普段の生活の様子や困っていることをきちんと聞かないと、病型も、進行具合も、見極めることができません。長い時だと1人に1時間くらいかけることもあります。

患者家族・くどひろ

確かに、長い時だと待合室で2時間待ちとかですもんね。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
いつもお待たせしてしまってスミマセン…。
患者家族・くどひろ

いえいえ!私、「ものわすれ外来は待たされないとダメ」だと思っているんです。患者の話をきちんと聞いてくれているから、時間がかかるわけで。逆に待つことのない、ものわすれ外来は、「ドリフターズ診療」をしているんじゃないかと思うんです。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
ドリフターズ診療?
患者家族・くどひろ

「食欲ありますか?」「薬飲んでますか?」と質問をしながら、1分~2分で診療が終わってしまう状況を 「ドリフターズ診察」 というんだそうです。ババンババンバンバン、「飯食ったか?」「歯磨いたか?」「じゃ、また来週!」というやつですね。上田諭さんの本で読みました。

「食欲がないんです」と患者さんが言えば、「じゃ、お薬だしますね!」と原因も聞かずに薬を処方する…私が最初にかかった病院は、まさにこれでした。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
なるほど。でもうちの診療所でも、医師である私だけで全ての患者さんの話を隈なく聞くのは無理ですよ。なので、看護師に患者さんやご家族のお話をたくさん聞いてもらうようにしています。もちろん、最終的な治療の方針や薬の処方は私が決めますが、患者さんやご家族に寄り添うことは、むしろ看護師の方が適任ですよね。看護師はスゴイですよ。
患者家族・くどひろ

確かに、うちの母も、短気記憶は当たり前にすぐ忘れるのですが、不思議と看護師さんの顔と名前は覚えているんですよね。いつも笑顔で話を聞いてくれていることが効いているんだと思います。ホント、ありがたいです。

ものがたり診療所もりおかの待合室
ものがたり診療所もりおかの待合スペース。医療機関らしからぬほっこり感が漂います。診察待ちの間はここで本を読んだり、掲示板を眺めたりします。

「認知症はバカになることじゃない」医師が伝えることの大切さ

患者家族・くどひろ

先生、初めてうちの母を診察してくれた時のこと、覚えてますか?認知症の自覚のない母に、「ショックなことを言いますが、あなたはアルツハイマー型認知症です」と、告知されたんです。本人への告知は予定していなかったので、ドキッとしました。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
ドキッとさせてしまってスミマセン。
患者家族・くどひろ

でも、続けてこう言われたんです。「認知症だからって落ち込む必要は全くないんですよ。認知症は、歳を取れば誰でもかかる、風邪や高血圧みたいなありふれた病気です。病気になって責める人はいますか?認知症も一緒です」言われた母は、キョトンとしていました(笑)。

本人への告知は慎重にならないといけない、絶望を与えてはいけない、と常々思っていたんですが、先生が希望と一緒に伝えてくれたことで、母も受け入れたように見えました。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
言いましたっけ…(笑)。でもそれは、どの患者さんにも言っていることですよ。
患者家族・くどひろ

私、その言葉を聞いて、「この先生にこれからお世話になろう」って決めたんです。それまで、認知症と診断されても、前向きな言葉をくれる先生はいませんでしたから。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
よく診察に来られるご本人が言うんですよ、「先生、私はもうバカになってしまったよ」と。認知症になった自分を恥じていらっしゃるようなんですね。まだまだ社会全体に認知症に対する偏見が残っているからだと思います。なりたくて認知症になる人なんていないし、とてもありふれた病気の一つなのに、です。

これから認知症になる人が益々増えていく中で、その偏見を、社会から取り除いていかないといけない。私は、医師こそがそうしたメッセージを世の中に発信していくべきだと思います。

ものがたり診療所もりおかの診察室
ものがたり診療所もりおかの診察室にて。松嶋先生はいつも白衣を着ないリラックススタイル。病院嫌いのくどひろさんのお母さんも、ここなら緊張しないようです。

患者家族も受け身じゃダメ!認知症をよく勉強するべき

患者家族・くどひろ

私は、家族も勉強が必要だと思っていて、自分なりに認知症という病気について、たくさん本を読んだり、話を聞きに行ったりして、知識を吸収しようとしているのですが、こういう患者家族、先生はやりづらくないですか?

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
いえ、全然。認知症についてよく勉強されている介護家族さんの知識は、プロ級ですよ。私は、介護者が病気について勉強することは大事だと思います。特に、認知症の薬は、飲む前に副作用の出現を確実に予測することはできませんし、まして副作用を放っておくと重症化することも多いです。だからこそ家族の見極めは重要です。

「医患一体」という言葉がありますが、認知症診療においては、医師も患者も家族も一緒に勉強することが大事ですね。ただ、自分の調べた内容に固執しすぎて、目の前の医師の言葉に耳を傾けてくれないとなると、話は別ですが…。特にネットやテレビといったメディアの情報は断片的で、過剰な表現が多いので。

患者家族・くどひろ

なるほど。患者側にも傾聴力は必要ですね。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
くどひろさんはよく、診察の時にメモを渡してくれますよね。お母さんの普段の生活の中で出ている認知症の症状をリストにしたメモ。ああいう病状報告は、診察の参考になるので助かりますね。長文な時はじっくりとは読めないので、流し読みになっちゃいますが。
患者家族・くどひろ

それならよかったです。私の場合は遠距離介護で、母と一緒に診察にかかれるのは月に1回で、貴重な時間を使っているんだから、予め必要な情報は勉強して、母の行動をよく観察して、先生に聞きたいことをリストアップしておかないと不安なんです。それに、「同じ事を何回も言います」とか、「曜日の感覚がありません」とか、本人の前では言いにくいことも、メモでなら渡しやすいので。これからも活用していきます!

医師に必要なのは、患者さんの「物語」とともにに歩む勇気

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
医師って周りから「先生」と呼ばれる仕事で、なかにはスーパースターのような扱いを受けがちですが、中身はただの人ですからね。
患者家族・くどひろ

ただの人・・・。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
そうです。もちろん、全ての患者さんのために自分の力を最大限に発揮したいと常々思っています。でも、全員に均等に同じ力を発揮するのは簡単ではありません。例えば信頼されればされるほど絶対に良くしたいというふうにモチベーションが上がりますし、逆に医師への不信感いっぱいで最初から喧嘩腰で来られる患者さんには、説明する気力が削がれたりもします。患者さんとの信頼関係の中で、医師の気持ちが変わることも事実ですよね。

ただ、それは医師にごまをするとか、媚びを売るとか、そういうことでは全くありません。医師を信頼しつつも、言いたいことが言い合える関係を築き、納得するまで医師と意見を交わすことがよい結果につながるはずです。

患者家族・くどひろ

医師の最高のパフォーマンスを引き出すのも患者側のスキルのうちですね。では、先生が認知症診療の現場で絶対に欠かせない、大事にされていることってありますか?

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
大事にしていること・・・そうですね、私は患者さんの数だけ物語があると思っていて、その人の物語とともに歩む勇気がとても大切だと思っています。

外からあれこれと指示をだすのではなく、患者さんやご家族との対話を重ねて、一緒に物語をつくっていくこと。ご本人がどんな形で治療をして、どんな人生を過ごされたいのか、それら物語を尊重するスタンスを持つべきだと思っています。

患者家族・くどひろ

それ、うちの母には最高です!そうやって患者側の目線で考えてくれる医師が増えてくれたらいいなあ。そしたら、将来自分が認知症になった時も安心です。

ものがたり診療所もりおか・医師・松嶋大
私もいずれ認知症になる予定ですので、患者力も磨いていかないと!です。

以上、お二人の対談でした!

松嶋先生とくどひろさん
認知症介護家族のくどひろさんの著書「医師には書けない!認知症介護を後悔しないための54の心得(廣済堂健康人新書)」絶賛発売中!
The following two tabs change content below.
認知症ONLINE 編集部

認知症ONLINE 編集部

認知症ONLINE(オンライン)は、認知症に関する情報を発信する情報ポータルサイトです。認知症の介護でお悩みの方、認知症に関心がある人に向けて、認知症の介護や予防・改善方法、ほっと一息つけるエンタメ情報など、あらゆる情報を分かりやすくお届けします!
介護のお仕事

Facebookコメント