「夕暮れ症候群」はなぜ起こる?帰宅欲求と対応を考える

by 市村幸美市村幸美 49272views

認知症認定看護師の市村です。病院や老人ホーム、デイサービスなどの介護施設では、認知症をもつ方が「家に帰る」と主張することがよくあります。これは、自宅にいても同じで、「夕暮れ症候群」や「たそがれ症候群」、「帰宅願望(帰宅欲求)」と呼ばれたりもします。筆者も、認知症治療病棟に勤務していたので、日々そうした場面に出会い、どう接するべきか、当時は悪戦苦闘していました。なぜ夕方なのか、なぜ「帰りたい」のか、今回は、その背景に目を向けてみたいと思います。

どうして夕方になるとソワソワするの?

日中は穏やかに過ごしていたのに、夕方になると落ち着きがなくなったり、「家に帰りたい」と訴える、その背景には何があるのでしょう。大きく次の3つに分けて考えてみたいと思います。

外が暗くなる×認知機能の低下=不安

日が暮れる様子まず前提として、認知症の中核症状(記憶障害、見当識障害)によって、今いる場所がどこなのか、なぜ自分がここにいるのか、今は何時なのか、分からない状態が考えられます。これは、本人にとってとても不安でストレスを感じる状態です。そこに、日が暮れて辺りが暗くなるという物理的な外部環境が加わると、更に不安感は大きくなります。そのことが気持ちをソワソワさせる原因の1つだと考えます。

「夕方は忙しい時間」という体内サイクル

体内時計普通の生活では夕方は忙しい時間ですよね。サラリーマンならば仕事を終え帰宅する時間でしょうし、主婦であれば家族のために食事を準備する時間です。昔からの習慣は、認知症になってもなくなりません。「こんな見ず知らずの場所でのんびりしている場合じゃない」と思うのは当たり前のことのように思います。

周囲のせわしない雰囲気が伝染する

慌ただしい施設内特に病院や施設では、申し送りに向けて夕方から忙しくなります。デイサービスでは送迎の時間になり、職員があわただしく出入りします。訴えに対してゆっくり対応ができない時間帯になります。この少しの空白の時間がもたらす影響は現場で働いていると大きいような印象があります。

介護者は、夕暮れ症候群にどう対応すべき?

ソワソワしたり、「家に帰りたい」と訴える方の理由はさまざまですが、共通している心理としては、「今いる場所が安心して過ごせる場所ではない」ということではないでしょうか。歳を取るほど、新しい環境に順応しづらくなります。認知機能に障害をもつ人にとっては、なおさらです。特に、入院や施設入所をした最初の数週間は、帰宅願望が強く出る可能性があります。そんな時、介護者はどう接するべきでしょうか。

絶対にやってはいけない対応

まず、やってはいけないのは、次のようなことです。

  • 本人の主張を否定する
  • 「帰れない」という言葉を使う
  • 強い口調で対応する
  • 本人に理解できないような説明で訴えを封じる
  • ろくに訴えを聞かず、放置する

こうした対応では、本人のとまどいや不安をかえって煽ってしまい、「帰りたい」気持ちに拍車をかけます。時には、暴言を吐いたり、暴力の形で怒りを表す方もいるでしょう。最終的には、その場の嫌な感情だけが残り、環境に慣れるのに時間がかかってしまいます。

本人を落ち着かせる対応

一方で、本人の気分を落ち着かせるのに効果的な対応もあります。

  • いったん本人の気持ちを受け止める
  • 「帰れない」という言葉は使わない
  • ここに居てほしいことを伝える
  • その人の好きなものや趣味の話に興味を向ける
  • 安心できる居心地いい環境を整える

要は、本人の立場に立って考える、ということなのですが、ここで一番気をつけたいのは、否定をしないこと。まずは本人の言い分を聞き、信頼関係を築くことです。「家にはどなたが待っているんですか?」「お子さんはどんな方なんですか?」と回想法をかねて話をそらしてみてもいいかもしれません。話をしてみてもダメなら、近所を一周してみて、「疲れたので一度帰って休みませんか」と提案してみるのも良いと思います。

「家に帰る」は家とは限らない。輝いていた時代に帰りたい。

帰宅願望を訴える際、たいていの方が「家に帰る」と言います。認知症ケアを始めたばかりの頃、筆者はその言葉をその言葉のまま受け取り、今まで住んでいた家に帰りたいのだと思っていました。

しかし「家に帰りたい」という言葉の裏には認知機能の低下によってさまざまなことが出来なくなった自分を受け止められず、自分が何でも出来ていた自分が一番輝いていた時代に帰りたいと思っているのだと感じるようになりました。恥ずかしながら、忙しい時間帯になると騒ぎ出す認知症の方にイライラしてしまっていたときがありました。しかしこのような心理に気付いてからそのような感情はなくなりました。

いかがでしたでしょうか。夕暮れ症候群も、BPSDと呼ばれる行動心理症状のひとつです。この背景には、必ず中核症状とストレスを引き起こしているなんらかの要因があります。対応が難しく苦労されている入所・通所施設があると思いますが、ひとつひとつ行動を丁寧に見つめ、焦らず信頼関係を築いていけば、笑顔をみせてくれるようになるはずです。

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市村幸美
准看護師として数年間勤務した後、進学コースへ進み看護師免許を取得。認知症治療病棟への配属をきっかけに認知症ケアに興味をもち認知症ケア専門士、認知症看護認定看護師を取得する。「認知症をもつ人が受ける不利益をなくする」ことを使命と考え、現在は現場での実践や教育などさまざまなフィールドで介護・福祉に携わっている。またブログ『認知症専門のナースケアマネ市村幸美の【美Happy介護】』やSNSを通して介護職だけでなく一般の人に向けても認知症や介護を前向きに受け止めてもらえることを目指している。
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