たかが人形、されど人形。認知症のYさんと赤ちゃん人形のはなし

by なっちゃんなっちゃん 9423views

ドールセラピーという言葉をご存知でしょうか?介護現場では、認知症を持つ高齢の方(特に女性)に、人形を抱かせると、認知症の周辺症状が改善することがしばしばあります。人形の子守りするという「役割」を担ってもらうことにより、気持ちに張りが出たり、穏やかな精神状態になるようです。私が働いていた介護施設でも、そうした人形の効果を目にする機会がありました。

認知症のYさんが抱いていた赤ちゃん人形

ある介護施設で出会った利用者のYさんという高齢女性がいました。Yさんは認知症が深く、いつも物静かな品のある方で、話しかけるとニッコリと笑う方でした。口数はもともと少なかったのですが、出会って数ヶ月経つと、日に日に話すことが減りました。一点を見つめ、表情はほとんど失い、言葉を発したと思ったら「もう寝かしてください。あきませんか?まだ、だめですか?」といった具合でした。

そんなYさんが、ずっと持っている赤ちゃん人形がありました。特別、人形に話しかけたり触れることはなく、ただそっと胸に抱いているのです。ご本人の私物なのか、スタッフが与えたものなのかは、定かではありませんでしたが、いつも大切そうにされていて、人形のことを、本物の赤ちゃんと思われているのかな、と思いました。

「可愛い赤ちゃんですね」「可愛い“人形”でしょう?」

ある日、Yさんが人形を抱いでるのを見て、

「この赤ちゃん、可愛いですね^^」

と声をかけてみました。すると、返ってきたのは、

「この“人形さん”、可愛いでしょう?」

という言葉。衝撃でした。Yさんは、人形を本物の赤ちゃんだと思い込んでいるのではなく、人形だということをしっかりと自覚していたからです。私は無意識に自分が「認知症だから、人形という認識をしているはずがない」という先入観を持っていたことに気付き、恥ずかしくなりました。

赤ちゃん人形をドレスアップしてみた

人形をよく見ると、服はボロボロで、肌も髪も黒ずんだ汚れがついていました。人形だと認識していても、Yさんが大切にしていることに変わりはない。私は、もっと人形に関わってみようと思い、人形の身体と頭を水で洗い、新しい服を作って着せてみました(雑ですが・・・・)。

こんな感じです。
こんな感じです。

しかし、Yさんに見せても、思い描いていた反応はありませんでした。しかし、諦めの悪い私は新しいバージョンの服を作って着せてみた。

こんな感じです。ハロウィンバージョン。
こんな感じです。ハロウィンバージョン。

すると、Yさんが人形に話しかけたんです。

「まー!こんなにかわいい服着せてもうて。おたくが作ってくれはったん?ありがとうございます」

普段、口数も少なく物静かなYさんが嬉しそうに声をあげ、抱き上げ、しばらく人形に話しかける姿は、ほほえましい光景でした。

相手の立場になってみることの大事さ

たかが人形、されど、Yさんにとって大切な人形。今回の一件でもそうですが、私が今の介護現場で痛感するのは、相手の立場になって行動することの大切さです。

相手を知りたければ、相手の気持ちを想像すること。想像するには、情報が必要です。しかし、情報を得るにも限りがあります。介護施設では、入所の時にある程度記載されていますが、悲しいことに驚くほど記載のない施設もあります。また、情報があるからといっても、情報をもとに先入観で決めつけてアプローチしていくことは逆効果です。(今回、私がYさんが認知症だから人形と認識していない、と思い込んでいたように…)

もちろん、相手のことをすべてがわかることはできません。しかしながら、注意深く観察して、自分の目で情報を確かめて、イメージしてみることで、結果として相手が笑ってくれたり、楽になったりすることもある。赤ちゃん人形の一件で、私が学んだことでした。

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なっちゃん

なっちゃん

1978年生まれ。高校を卒業後、病院の看護助手から始まり、現在は老人保健施設の認知症フロアを担当。休日には癒しを頂きにタッチセラピーのボランティア活動を行っています。保有資格は、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)、介護職員基礎研修、介護福祉士、福祉用具専門相談員。
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