なぜ介護のプロが認知症高齢者へ虐待してしまうのか?

by 佐藤 瑞紀佐藤 瑞紀 105865views

近年、高齢者への虐待が増えています。記憶に新しい川崎の高齢者住宅で3人が転落死した事件をはじめ、施設での虐待が表面化してくるケースが多くなってきました。今年2月に発表された、2013年におきた介護施設での虐待は前年比30.7%増の962件。近年、高齢者虐待の通報件数は右肩上がりに増えています。介護のプロであるはずの職員がなぜ、利用者に暴力を振るってしまうのか。今回は、介護職の現場にいた人間として、色々と考えた事をまとめたいと思います。

介護施設で多い高齢者虐待とは?

一言で高齢者虐待といっても、その種類はさまざまです。

  • 身体的虐待…殴る、蹴る、叩く等をして暴力をふるう
  • 心理的虐待…脅しや侮辱、無視、嫌がらせによる精神的苦痛を与える
  • 性的虐待 …本人が同意していない性的な行為を強要する
  • 経済的虐待…本人の合意なしに財産や金銭を使用したり、制限する
  • 介護放棄 …必要な介護サービスを利用させない、世話をしない(ネグレクト)

介護施設で圧倒的に多いのは、暴力行為を伴う「身体的虐待」と暴言を浴びせたりして精神的に追い詰める「心理的虐待」です。また、認知症高齢者の要望を無視したりする「介護放棄」も多くなっています。

実際に経験した虐待の事例

私も10年以上老人ホームで働いていたので、虐待が疑われるケースには何件か遭遇しました。

ある女性の利用者さんがいました。足が不自由で車椅子を使っており、認知症も進み、コミュニケーションをとるのが難しい状態の方でした。ある朝、その肩の右肩付近が突然骨折してしまっていました。病院で診てもらうと、「ぶつけたりして折れたのではなく、何か無理な力がかかって折れた可能性が高い」という診断でした。つまり虐待が疑われたということで、その利用者さんに関わった職員は全て事情を聴かれましたが、介護は基本的にマンツーマンなので、結局詳しい原因等は分からないままでした。

介護は利用者さんと2人きりになるプライベートスペースで行われることが多く、疑わしいが確信を持って虐待であると言えないケースが多くあります。結局、私も虐待が行われているのをこの目で見たことはありませんでした。

虐待を受ける高齢者の85%が認知症

今年2月に発表された厚生労働省の調査では、H25年に虐待された高齢者のうち、認知症を持つ人が85%という結果でした。これは、現場職員からしても納得の数字です。

また、中でも身体の小さい女性の方が被害に合いやすく、何かされても周囲に訴えることが出来ない方が虐待を受けやすい傾向にあるように感じます。

介護職員による虐待が起こってしまう原因

なぜ、介護職員が虐待を起こしてしまうのか、我が身を振り返って考えてみました。

1.認知症ケアの難しさ

認知症の人に現れる症状は、一人ひとり異なります。とくに、「暴言」、「暴力行為」、「介護拒否」といった対処が難しい周辺症状が見られる利用者さんへの関わりは難しくなります。私の職場でも、お手伝いをしようと手を伸ばしたら噛みつかれたり、手をつねられたりする…ということも日常茶飯事でした。関わり方に慣れていた自分でも、余裕がないとつい、カッとして大声を上げてしまったり、叩かれたら叩き返してしまいそうになったこともありました。

2.職場がつねに人手不足の状態

介護業界は慢性的な人手不足です。また、集まったとしても、新人が未経験だったり知識が不足していたりすると、既存職員の負担は増えます。

そして、介護は体を使う過酷な仕事なので、腰痛等で出勤出来なくなってしまい、欠員が出てしまうことも頻繁にあります。その欠員を埋めるために他の職員が無理をして体調を崩してしまう…という悪循環にもなりがちです。その結果、疲れやストレスが虐待に繋がってしまう場合もあると思います。

3.職場教育の不徹底・研修不足

慢性的な人手不足のため、新人として入職しても満足に教育が受けられないまま独り立ちさせられてしまうことも多く見られます。そうした場合、利用者さんにどう接したらいいか分からず、新人は戸惑います。そんな中、認知症で周辺症状がある方などに、暴力を振るわれてしまったりすると、それがストレスに繋がることも考えられます。

また、介護技術に関してだけではなく、虐待についても研修を受けておかないと、仕事に就く前に必要な心構えが出来ないままになってしまいます。働きながらもいつも知識を習得する姿勢が大切だと思います。

4.職場内の人間関係

上記の悪条件が揃うと、職場の人間関係がギスギスしてきがちです。そうすると、ストレスの原因に職場の人間関係が加わり、煮詰まります。私の場合、同期と愚痴を言い合ったり、仕事の後に飲みに行ったりして励まし合っていました。フォローしてくれる先輩の存在も大きく、そうした人間関係がないと、うまくストレス発散につなげるのは難しかったと思います。

虐待が起きないために何をすればいいのか?

虐待問題は、とても根深い社会的な背景があると思います。ただ、それを防ぐためのアプローチは、色々あるはずです。

施設側の工夫

本来、施設側はまず、職員の育成・教育に力を入れるべきだと思います。認知症ケアへの正しい理解や接し方を周知する。また、職員のストレスケアにも目を向けることも大事です。また、施設側も利用者さんや家族に何か困ったことはないか、疑問点はないか等こまめにコミュニケーションを取ることも必要です。

さらに現状、施設がつける監視カメラは、ロビー等の共用部分が中心ですが、今の時代、一歩踏み込んで居室にカメラや録音機材を設置することも検討すべきかもしれません。もちろん、居室は利用者さんのプライベート空間なので、利用者さんやご家族に許可を取ることが前提となりますが、ご家族の安心を守るために、必要な場合もあると思います。

家族側の工夫

家族を介護施設に預けている時、まずは少しでも気にかかったり、不安なことがあれば、その都度こまめに職員にコミュニケーションを取ることをおすすめします。こまめに施設と連絡を取ったり、施設を訪ねることで信頼できる環境を自ら作っていくことが大切です。それでも、解決しなかったり、疑わしい場合は、居室内にカメラやレコーダーを設置して普段の介護の様子をチェックするのもいいと思います。近年、家族がそうした記録を取ることで虐待が表面化するケースも少なくありません。

職員個人の工夫

介護ストレスを溜めないために、介護から少し離れる時間を持つことも大切です。私は、もともと工作や絵を描いたりすることが好きなので、休みの日は趣味の時間を持つようにしていました。また、休みの日はしっかり休む、仕事の時は仕事へ、というメリハリのある生活も大切です。頭の中の切り替えが必要なのです。認知症高齢者と関わる場合は、その方の反応や声掛けにイライラするのではなく、自分もその反応を見て楽しむ姿勢も大切だと思います。その気持ちが、精神的な余裕を生むのではないでしょうか。

以上、色々とアイデアを挙げましたが、そもそもの介護職員の処遇改善等の、抜本的な改革がなければ、虐待事件がゼロになることは無いとも思います。それでも、一人ひとりが出来ることを探して、実践して、虐待を防いでいくことが大事ですね。

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佐藤 瑞紀

佐藤 瑞紀

元有料老人ホームのケアマネジャー。22歳で大学卒業してから約12年、老人福祉の世界で経験を積む。約10年介護士として高齢者と関わり、その後生活相談員を経てケアマネジャーとして着任する。高齢者1人1人とコミュニケーションを取りながらケアプランを作成することで、QOLの向上が少しでも実現出来るように考えてきた。現在は結婚を機に退職しており、主婦として日々奮闘中。
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