映画『毎日がアルツハイマー』シリーズ監督・関口祐加さんに聞く!認知症のポジティブ介護とは

アルツハイマー型認知症と診断された母・宏子さんと暮らす日常を、切り取った映画『毎日がアルツハイマー』シリーズ。YouTubeで累計約100万アクセスを集めた超人気動画が映画化されたドキュメンタリー映画です。専門書を読んでも分からない、認知症の日常世界を笑いとユーモアたっぷりに描いた本作品。作ったのは、宏子さんの実の娘であり、映画監督の関口祐加さん。現在も、自宅で宏子さんの介護を続けられています。今回は、関口監督に、認知症介護との向き合い方について、お話を伺いました!

【映画】毎日がアルツハイマー

認知症になってからの母の方が、人として断然好き!

――― 認知症の母・宏子さんに、カメラを向けようと思ったのはどうしてですか?

認知症になってからの母が、おもしろくて魅力的だったからです。元々の母は、とても堅物で良妻賢母を絵に描いたような人でした。いつも周りに気を遣って世間体を気にしている、そんな母親が当時は苦手でしたね。ところが、認知症になってからの母は、もう開放的になって。「ボケた、ボ~ケた♪」なんて歌ったり、感情のまま怒りを表したり。本来の母の姿がやっと見えたような気がして、嬉しかったんです。だから認知症を撮りたい、というよりは、認知症になった母がとても魅力的だから、撮りたくなったんですね。

――― 認知症に対して、元々持たれているイメージはありましたか?

母方の祖母が認知症だったんですよ。とても可愛くボケて、家族からとても愛されて、ある日自宅でお腹いっぱいお昼ご飯を食べて、そのまま逝きました。そんな祖母を知っていたからか、認知症に対してネガティブイメージは全くなかったんです。

ただ、母の動画をYoutubeにアップした時は、「認知症の老いた母親をさらけだすなんて!」といった批判の声も結構ありましたね。世の中は認知症になることや、歳を重ねることを“恥ずかしい”と捉えているんだな、と実感しましたね。家族の中でも、妹は「あんなにしっかりしていたお母さんが、何もできなくなっていく」と言うんですが、私は逆で、「窮屈そうだった母が、認知症の力を借りて人生のしがらみから解放されている」という解釈です。同じ母親を見ているのに、この視点の違い。こういう視点の違いが、確実に介護に反映されると思います。

――― すごく愛のある視点ですね。関口監督が、そう考えられるのは、なぜなのでしょうか?

それは、根っこの部分で母の気持ちがよく分かるからだと思います。私自身、以前オーストラリアに29年間いた時は、常にアジア人というマイノリティの立場で扱われましたからね。表現者にならなかったらとても辛かったと思います。でも私は、映画監督としてそれをネタに出来る。母も、社会から「認知症」というレッテルを貼られている、という部分で共感できるんです。色眼鏡で見られている側の人間の気持ちが分かると、介護の視点が広がります。

バースデー宏子さん
お誕生日は毎年ケーキを食べてお祝い。嬉しそうな宏子さん 『毎日がアルツハイマー』より (C)2012 NY GALS FILMS

アルツハイマーになっても、脳の95%は正常

――― 世間一般では、いまだに認知症は辛いものとして語られがちです。一方、映画の中での関口監督と母・宏子さんとの掛け合いは、時に漫才のようにコミカルで、とてもポジティブなエネルギーを感じました。前向きに介護するコツって、あるんでしょうか?

ポジティブというか、身構えず、普通に接しているだけなんです。まず、認知症という病気を怖いものだと全く捉えていません。映画にも登場していただいた順天堂大学大学院の新井平伊教授も、「アルツハイマー型認知症というのは、脳のほんの5%の機能が壊れているだけで、残りの95%は正常」とおっしゃっていて、とても納得しました。実際に母と接していると、瞬間瞬間は、言っていることも、感情も、至極真っ当です。そのことを頭に入れておくと、母の行動の理由に目が向けられるんですよ。母は認知症初期の頃、2年半、家に引きこもっていた時期がありました。その理由は「出来ないことが増えた自分を周りに晒したくない」という、母なりの葛藤があったからこそなんです。そのことを理解できないと、ただの異常行動に見えてしまう。理由を探ることは、本当に大事です。あとは、プランBでしょうか。

――― 介護に必要な「プランB」というと?

本来の作戦がうまくいかなかった時の代案ですね。介護は特に「プランB」を用意することが必要です。例えば、母は3年半に亘りお風呂に入りませんでしたが、絶対に無理強いはしない。私の「プランB」は、訪問看護師さんをお願いして身体を拭いてもらって最低限の清潔さを保つということでした。デイサービスに行ってもらうには、面食いの母の心を掴むイケメン介護士をケアマネさんに探してもらう。母に拒否されることなんてしょっちゅうですし、むしろ、思い通りに進まないのは当たり前です。大事なのは、機転と想像力を働かせて、プランBを考えること。これができるとイライラしないし、母の世界を共有できるんですね。

介護では、自分だけでやろうとすると必ず行き詰まります。私は、「助けてー!」って騒いで、借りられる手はいくらでも借りますよ(笑)。「一人で頑張って介護しよう」という目線で考えていたら、必ず破綻します。

おばあちゃん大好きな姪っ子・琴子さんと
おばあちゃんが大好きな姪っ子・こっちゃんと宏子さん 『毎日がアルツハイマー』より (C)2012 NY GALS FILMS

在宅介護至上主義に「ちょっと待った!」

――― 日本では、今後も「在宅介護」を推し進めていく流れにありますが、このあたりはどうお考えですか?

私は、「在宅」ありきで介護を考えるのは、ちょっと違うんじゃないかな、と思っています。認知症になる高齢者が増えて、今までみたいに在宅介護だけではどうにもならなくなってきているんじゃないか、と。映画がきっかけで、頻繁に介護家族の方の声を聞く機会がありますが、追い詰められてギリギリの精神状態にいるご家族は本当に多く、胸が痛みます。

『毎日がアルツハイマー2』の中でも触れましたが、介護は、どうしても「主従関係」が発生して、介護する側が圧倒的な力を持ちます。そのことを介護側がよほど自覚しないと『虐待』が起こってしまう。家族なら尚更です。家族ができるところまで介護をして、「もう無理!」となった時、すぐにギブアップ出来る環境を整えることが急務なんじゃないでしょうか。このまま無理に在宅介護を推奨し続ければ、介護虐待や介護殺人は増える一方だと思いますよ。

――― 在宅介護のリスクにも、もっと目を向けるべき、ということですね。

そうですね。私たちはいつの間にか、「自宅で最後まで過ごすことが一番幸せ」と刷り込まれていると感じます。一番安心できる場所って、一人ひとり違うし、また、「最後まで住み慣れた地域や自宅で」というキャンペーンも「箱もの」からの視点であって、介護の本質ではありません。

母にとっても、住み慣れたはずの自宅が、不安な場所に変わりつつあります。自分の記憶の混乱が進む中で、何を着たらいいのか、使い終わった食器はどうすればいいのかなど、自分が理解出来ないことや出来ないことを突きつけられる場所になるのですから。夜中に不安になって何度も起き出し、私がいるかどうか確かめに来たりもします。ところが、お泊まりのデイサービスに泊まった時は必ずスタッフが側にいると分かるからか、ぐっすり眠っているという報告です。今後、自宅で介護を続けるかどうかも、考え直す段階にきていると感じています。

日本でも『認知症ケア・アカデミー』を設立すべき

――― 関口監督にとって、理想的な認知症介護はどのようなものなのでしょうか?

認知症介護は、とても高度な技術なのです。認知症という病名は同じでも、必要なケアの内容は一人ひとり全く異なるし、小手先のテクニックだけでは通用しない。「毎日がアルツハイマー2」で紹介したイギリスの『パーソン・センタード・ケア』は、認知症の人を中心にしたケアを考えるというコンセプトですが、もっと日本でも積極的に取り入れて欲しいと思います。

今の日本の介護は、「お世話型」中心ではないでしょうか。出来ないことをやってあげる、というスタンスは、実は介護側のスケジュールを中心に考えているからだと思います。もちろん、理想的な介護を実践している施設もあると思いますが、まだまだ全国のばらつきが、あるのではと考えます。私は、イギリスのように日本でも「認知症ケア・アカデミー」を作り、専門性の高い認知症専門の介護士を育成してほしいですね。いずれ国立を目標に、まずは、そういった問題意識の高い地方と連携して何とか働きかけることができないか、模索を始めているところです。

イギリス「認知症ケア・アカデミー」施設長のヒューゴ・デ・ウァール博士と関口監督
イギリス「認知症ケア・アカデミー」施設長のヒューゴ・デ・ウァール博士と関口監督 『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』より(C)2014 NY GALS FILMS

――― 最後に、認知症の介護に向き合っている方々にメッセージをお願いします。

認知症の介護で一番大事なのは、本人の気持ちを最優先に考えて行動することだと思います。何かを決める時には、必ず本人の気持ちを確認して、意志を尊重する姿勢が大切です。ただ、認知症の介護を、ひとりで抱え込むのではなく、出来れば限界を感じる前に、正直にSOSの声をあげること。介護施設の利用など、まわりの力を借りることは、恥ずかしいことでも何でもなく、罪悪感を感じる必要も全くありません。

日本の認知症ケアは、問題が山積みですが、ピンチはチャンス。一人ひとりが声をあげることは意味があることだと思います。「自宅介護に縛らないで」とか、「介護のプロをもっと育成してほしい」という意見を、一人ひとりが言いやすい社会の雰囲気を作っていくことが大切ですね。

★今回お話を伺った方

関口祐加さんプロフィール写真
●関口 祐加(せきぐち ゆか)さん

1957 年 横浜生まれ。1981 年、日本の大学を卒業後、オーストラリアに渡り、映画と運命的な出合いをする。1989 年「戦場の女たち」で監督デビュー。第二次世界大戦のニューギニア戦線を女性の視点から描いたこの作品は、国内外で高く評価され、数多くの賞を受賞。

1992 年「WHEN MRS. HEGARTY COMES TO JAPAN」(日本未公開)を発表し、アン・リー監督からコメディのセンスを絶賛される。この作品以降、コメディ・ドキュメンタリー作品を目指す。1996 年シドニーのマッコーリー大学大学院メディア学部映画専科の修士課程を首席で卒業。その後、オーストラリアの大学や映画学校で映画製作を教えながら、2007 年自身を被写体にして撮った「THE ダイエット!」を発表。心と食べ物の関係を模索したこの作品は、オーストラリア TV 局 SBS のその日の最高視聴率を叩き出した。

2009年9月より認知症の疑いのあった母親を被写体に自ら撮影を開始し、YouTube に動画としてアップし始める。100 万ビューに近い累計視聴者数となり、メディアからも注目される。2010年1月、母の介護のため29年ぶりにオーストラリアより帰国。動画は、長編ドキュメンタリー映画「毎日がアルツハイマー」として2012年7月に公開。以来、大ヒットロングランとなり、2014年7月に公開された 「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」と併せて、今も各地で上映が続く。現在は『毎アル』の最終劇場公開版を製作中。著書に『戦場の女たち』、『ボケたっていいじゃない』など

「毎日がアルツハイマー」公式サイト

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認知症ONLINE 編集部

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