なぜ、認知症があると、本人の気持ちが軽視されるのか?

理由を探る認知症ケア04

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【認知症に一番悩まされているのは、誰?】

認知症に一番悩まされているのは
身近にいる介護者
多くの場合は家族だと思われている。

「末期ガン」であれば
悩まされているのは本人と家族だと思うのに
「認知症」だと本人が除外される不思議。

一番、長く付き合っているのは本人なのにね。

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なぜ、この不思議なとらえ方が起きるのか

 これは本当に不思議なことですが、なぜか「認知症の本人が一番悩まされている」というとらえ方を、もちあわせていない人は少なくありません。いや、より正確に表現すると、家族が悩まされているということに重きを置き、本人の悩みを“無意識に”軽く扱ってしまう(時に、聞き流してしまう)と表現したほうが的確かもしれません。

 なぜ、このような不思議なとらえ方が起きるのか。いくつもの要因が考えられますが、ここで注目したいのは、本人よりも家族や周囲の人から、悩みを相談される機会が多いということが関係しているのではないか—ということです。

介護相談の多くは家族から寄せられる

 わたしが地域包括支援センターで働いていた時でも、認知症の本人から「わたし認知症じゃないかと思うのです…」と相談を受けたことは、一度もありません。たいていの場合は、家族や民生委員の方など、身近にいらっしゃる方から相談を受けることがほとんどでした。

 新聞やテレビ等で扱われる認知症に関する情報も、周囲にいる人が「これは認知症かもしれない」と判断するような症状から語られることが多いということも関係しているのかもしれません。

本人に役立つパンフレットが存在しない?!

 認知症に関するパンフレットは、医療機関でも、行政の窓口でも、手に入れられるようになってきました。そして、その多くには、おおよそ次のようなことが掲載されています。

  • 認知症とはどういうものか
  • 認知症かなと思ったら早期受診を
  • 介護の相談は○○へしましょう
  • 家族会で悩みを聞いてもらえますよ  など

 そうしたものから、介護する家族や周りの人に必要な情報は多く手に入れられるのですが、認知症の本人が必要とする情報が掲載されているものを、わたしは手にしたことがありません。

  • 「もしかして認知症じゃないかと心配だ」
  • 「認知症だとしたらこれからどうなるの?」
  • 「収入や生活はどうすればいいのか」
  • 「周りの人に認知症だと思われたくない」
  • 「家族に迷惑をかけたくない」
  • 「自分の人生はどんな最期を迎えるのか」  など

 初期段階で、自分でも異変を感じている人は、自分の身に起きている事柄に戸惑い、さまざまな不安を抱え、誰にも相談できずに1人で抱え、現実を直視したくないという日々を過ごしているかもしれません。それが、糖尿病や高血圧などの病気によるものなら、本人に役立つパンフレットがあるのに、認知症だとほとんどないというのは、すこし変な状況だと思いませんか?

バランスをとるために、あえて意識しておきたいスタンス

 認知症であれ、末期がんであれ、『本人が抱える不安や悩みに寄り添い、力になれるように関わる』ことが、医療・介護の専門職に『最初から最期まで求められるスタンス』じゃないかと思います。

<本人が穏やかで、家族は負担>・・・それほど多くはありません。
<本人が穏やかでないから、家族は負担>・・・往々にしてあります。

 だからこそ、本人が穏やかでいられるように、本人の不安や悩みに寄り添い、力になれるように関わることが、ひいては家族の支援にもつながるということを、忘れてはいけません。

 まず、本人に寄り添い、そして、家族への支援も考える。このスタンスを意識しなければ、同情や同感を抱きやすい家族よりのスタンスに、わたしたちはなりやすいものです。あえて本人に寄り添うことを意識して、きっとはじめて、本人・家族の両方にバランスのとれたスタンスになるのだと思います。

 このスタンスを、一人でも多くの専門職にとってもらえたら、きっと「認知症になっても安心」な医療や介護が受けられるのではないか―――そんな風にわたしは思っています。

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裵 鎬洙
コーチ 認知症ケアスーパーバイザー コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)講師 介護支援専門員実務研修・専門研修講師 【略歴】 1973年生まれ。兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後は介護施設で相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、関わる人の内面の「あり方」が ”人”や”場”に与える影響の大きさを実感。介護に携わる様々な立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の⼤切さを発見する研修やコーチングセッションを提供。著書『理由を探る認知症ケア~関わり方が180度変わる本~』。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。
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