成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な方々を支援する制度です。前回は、成年後見制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があることを解説しました。今回は、法定後見制度について、詳しくみてみましょう。
悪徳業者から認知症の人を守る「法定後見制度」
成年後見制度は、本人の判断能力が不十分な場合に本人を法律的に保護し、守っていくための制度です。うまく活用することで、高齢者、とくに認知症などで判断能力が不十分になってしまった人を悪質な消費者被害などから守ることができます。
高齢者の消費者被害の特徴としては、以下のものが目立ちますが、成年後見制度を活用することで未然に被害を防ぐことができます。
- 本来必要のないリフォームを言葉巧みに契約させられる
- 悪徳業者が親切心を装って近づき、次々と商品の購入を迫られる
- 健康面での不安などの弱みに付け込まれ高額の商品を売り付けられる
- 業者が言葉巧みに将来の不安をあおり、複雑な仕組みの金融商品を売りつけられる
- いつの間にか連帯保証人にさせられていた
法定後見制度の種類は3パターン
法定後見制度は、ご本人の判断能力が不十分となった時に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。成年後見、保佐、補助の3つの類型があり、本人の判断能力の程度により、これらのうちどの類型になるのかが決まります。
①成年後見 | 事理を弁識する能力を欠く状況にある場合 |
②保佐 | 事理を弁識する能力が著しく不十分である場合 |
③補助 | 事理を弁識する能力が不十分である場合 |
下記に、より詳しく説明します。
①成年後見とは
成年後見とは、本人の判断能力が全くない場合です。判断能力が欠けているのが通常の状態であり、一人で日常生活を送ることや財産管理をすることが困難であるような場合に、この成年後見の申立てを考えます。成年後見は、成年後見制度の①成年後見、②保佐、③補助の3つの類型の中で、一番本人の判断能力が低い場合です。
成年後見に該当するとされた場合、家庭裁判所が後見開始の審判をするとともに、本人を支援する成年後見人が選任されます。庭裁判所から選任された成年後見人は、本人に代わって日常の買物などの生活に関する行為以外の一切の財産行為を行うことになり、たとえば、本人が成年後見人の知らないところで高額の商品を購入させられたりした場合でも、その契約をすぐに取り消すことができるため安心です。
②保佐とは
保佐とは、本人の判断能力が著しく不十分な場合です。たとえば、日常的な買い物程度は一人でできるものの、物忘れが頻繁に見られ、訪問販売を受けると不要な物でもすぐに買ってしまったり、買い物の際にいくら払ったか、何を買ったか思い出せなくなるようになったら要注意です。①成年後見ほど判断能力は欠けていないものの、重要な財産行為が一人でできないと考えられる場合には、保佐開始の申立てを考えます。
保佐に該当するとされた場合、家庭裁判所が保佐開始の審判をするとともに、本人を支援する保佐人が選任されます。選任された保佐人は、家庭裁判所で認められた特定の法律行為について本人を代理して契約したり、また、本人が一定の重要な財産行為(民法第13条1項記載の行為)を行う際に同意を与えたりします。
保佐人の同意なく、本人が勝手に締結した一定の重要な財産行為は取り消すことができますので、たとえば、本人が、保佐人の知らないところで、本来必要のないリフォームを契約させられた場合などには、すぐに契約を取り消すことができるようになり安心です。
③補助とは
補助とは、本人の判断能力が不十分な場合です。日常の生活にはほとんど支障はないものの、軽い物忘れやものごとの混同などが見受けられ、金銭の貸借や不動産の売買などの大切な場面における重要な財産行為を一人で行うことに不安がある場合に、この補助の申立てを考えます。
補助に該当するとされた場合、家庭裁判所が補助開始の審判をするとともに、本人を支援する保佐人が選任されます。たとえば、補助人に「金銭を借りたり、保証人になること」について同意権が与えられている場合には、補助人の知らないところで、本人が勝手に誰かの連帯保証人になっていたという場合にはその連帯保証契約を取り消すことができます。
後見・保佐・補助の比較まとめ
上記で説明した内容を図表まとめると、下記のようになります。
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
対象者 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者 |
本人の同意(申立の際) | いらない | いらない | いる |
成年後見人等が同意または取り消すことができる行為 | 日常の買物などの生活に関する行為以外の行為 | 民法第13条1項記載の行為(主に重要な財産関係の権利に関する行為です。) | 民法第13条1項記載の行為の一部(申立ての範囲内で家庭裁判所が決定します。)※本人の同意が必要 |
成年後見人等に与えられる代理権 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める特定の行為 ※本人の同意が必要 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が定める特定の行為 ※本人の同意が必要 |
たとえば、身近な人が認知症になり、「この頃物忘れがひどくなってきたなあ。」「一人で自分のことができなくなってきたなあ。」と感じたら、悪質な消費者被害にあう前に法定後見制度の利用を考えてみてはいかがでしょうか。

芳賀 由紀子

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