介護施設の種類ごとに異なる「音楽プログラム」の役割って?

【アイキャッチ】施設形態ごとの音楽の役割

「音楽の花束」のGOTOです。
高齢者施設でご一緒に歌う仕事を始めたばかりの頃は、施設のことや高齢者の生活のことをなにも知りませんでした。当然、そこで見聞きすることに戸惑うことも多くありました。「これ、なんのこと?」と思った最初は通所型の「デイサービス」と居住型の「老人ホーム」の違いです。当初はどちらも同じ「高齢者施設」と思っていました。ご一緒に音楽プログラムをさせていただくためには、その違いをしっかり理解する必要がありますが、それは音楽プログラムを通して施設を見ることで、むしろはっきりと理解することができました。

老人ホームで求められる「非日常」としての音楽

私が足を運んだ居住型の老人ホームでは、認知症が深い人も多く、普段はベッドで寝て過ごし、移動は車椅子を使う方がたくさんいました。そうした方々にとって、音楽は「非日常」の楽しみとして喜ばれる傾向にありました。

お伺いしたある老人ホームでは、音楽プログラムの日になると玄関で待ち構えていて「今日は歌だね、待っていたよ」と声をかけてくださったり、帰り際に見えなくなるまで車椅子から手を振ってくださるかたがいました。

実際の音楽プログラムの内容は、日ごろ施設内で歌い慣れている曲を楽器で演奏したり、季節の歌を演奏しながらお話をしたり。特定のかたのリクエストに応えての選曲では、多くの方は一緒に歌うよりも静かに耳を傾けて楽しまれておられるようでした。

デイサービスで求められる「参加型」の音楽

一方、デイサービスでは、日中通ってくる方のための施設なので、比較的元気な方が多くおられます。音楽活動にも積極的な傾向で、一緒に歌ったり、一緒に演奏したり、という音楽プログラムがよく好まれます。

あるデイサービスにお伺いすると、そこではご利用者が施設からの送り迎えの車に乗るのを楽しみにしておられたり、職員のかたと冗談を交わしながら会話を楽しまれ、笑い声の響く賑やかな雰囲気でした。

会話がとても活発で、歌に関する話題も「花火は遠くまで見に行ったよ、でも最近はもう行かないね」「長谷川一夫、映画を観に行ったわ~」など話題が膨らみ、歌声とともに笑顔がいっぱいになりました。また日頃からみなさんでカラオケを楽しまれており、プログラムの中に歌謡曲を組み込む比重も多く、リズミカルな曲では両手に楽器を持って演奏を楽しまれるかたもおられました。リクエストも職員のかたがたから「あのかたがいつも入浴のとき歌っている曲を」など積極的にご提案いただき、楽しんでいただきました。

音楽は、寝たきりの人の運動のきっかけにもなる!

老人ホームでは身体機能に不安のあるかたが多いため、動きを伴う曲をご提案する際は、特に予め施設長さんにご意見を伺っていました。
すると「むしろこういうときにみんなと少しでも動こうとすることがいいので、どんどんやってください」とのこと。
無理なく参加していただけるよう、言葉かけなどにも気を配りながら歌と動きを導入したところ、ある日、普段は姿勢を少し傾ける程度しか動けない、ストレッチャーで参加されていた女性が、そっと上体を動かしていたのが見えました。とても驚いたので「今日の体操は楽しかったですか?」と話しかけたところ、じっとGOTOを見たあと、「目」で「頷いて」くださって、とても嬉しかったです。
このことはとても強く心に残り、そのあとGOTOはプログラムの間いつでもみなさんと目を合わせることができるよう、前よりも気を配るようになりました。

利用者だけでなく職員の方も一緒に楽しめる音楽を

あるデイサービスのご利用者の男性に少し元気がない時期があり、心配した職員のかたから「音楽プログラムで元気づけられないか」というご相談がありました。「昔、校長先生をされていたので学校で歌うような曲はどうでしょうか」と「翼をください」を提案してくださいました。早速、翌週のプログラムに組み込んだところ、意外にも職員のかたから「ほかのご利用者も口を大きく開けて歌って下さったし、わたしたちが知っている曲を一緒に歌えてとても楽しかった」というお声をいただきました。

いつも一緒にレクリエーションをしたり入浴介助をしている職員のみなさんは、利用者と「チーム」のような気持ちでおられる。それなのに「懐かしの歌は自分たち世代は知らないな」と思って寂しさを感じておられたのか。「翼をください」で一緒に歌うことで、繋がっている幸せ、連帯感や充実感を味わうことができたのかな、とその時気づいたのです。世代を超えて楽しめる音楽はたくさんあるので、そこをもっと大切にしていきたいと強く考えるようになったのはこの時です。

音楽の影響力を大切にしたい

ヒトラーがワーグナーの音楽で強く人の心を動かしたという歴史を紐解くまでもなく、音楽はわたしたちに大きな影響力を持っています。コマーシャルソング、映画などのBGMなどがいい例です。音楽なしではたいへん味気ない場合が多くありますね。しかしそれを私たちは日ごろあまり意識していません。

ひとりひとりの感情や体調、記憶などによって、音楽のもたらす影響や効果は千差万別で、わかっていないことが多いのです。感情に強く訴えかけるものだけに、音楽療法の領域ではとくに、音楽の活用は注意深く個別に計画されなければいけないと言われており(参考:「高齢者のための療法的音楽活用」アリシア・アン・クレア~音楽療法の概要)、デリケートな「療法」という領域に踏み込むとすれば、そこは専門の資格を持った、信頼できる方に任せたいものです。

このことを注意深く受け止めながら、GOTOはまだまだ続く「介護の世界のわからないこと」に突っ込んでいきました。自分が感じる音楽の影響力を大切にしながら、もっと活かすにはどうしたらいいのか、不器用な模索を続けてきた経緯を次回も引き続き書いてみたいと思います。

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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