認知症ケアに関わっている人の多くは、認知症の人の入浴拒否にぶつかった経験があると思います。入浴拒否は、特にアルツハイマー型認知症の方に多く見られる症状です。いつも頑なに嫌がる人や、もっともらしい拒否理由を言う人等、さまざまな形で怒らせてしまいます。お風呂を嫌がるお年寄りに、介護者として思うのが、「無理強いはしたくない、でもやっぱり入ってほしい」ということ。私自身も対応に悩んでいるひとりでもありますが、今回は認知症をもつ方の入浴拒否について考えてみたいと思います。
目次
午前中の入浴、集団風呂…介護者の常識は、認知症の人にとっては非常識
例えば、デイサービスでは朝ある程度お客様が揃い看護師がバイタルを測り終わった方から入浴を行うことが多いのではないかと思います。しかし、それは「普通」でしょうか?一般的に入浴は夜に行うものですよね。介護される側も、ある程度仕方ないと理解してくださっている方も多いですが、それを当たり前と思ってはいけないのだろうと思います。
認知症をもつ方では、午前中から入浴することを理解できない方もいるかもしれません。またふだん家の浴室しか使ってこなかった方は広い脱衣所や浴室を浴室だと理解できない可能性もありますし、今まで一人で入浴していた方が突然家族でもない人に服を脱がされたら恐怖ではないでしょうか。もし自分だったら、と考えてみてください。信頼のおけない人の前で裸という無防備な姿になれますか?
「お風呂は気持ちいいもの」という価値観を見直す
「日本人はお風呂好き」と言われるように、多くの方が入浴が好きだと思います。私自身も大好きです。そのため、「お風呂はみんなが好きなもの、だからお風呂は入った方がいい」と思っていました。しかしあるときにこれは自分の価値観の押しつけだと気づきました。
介護に限ったことではありませんが、自分が好きなもの、いいと思うこと、気持ちよいと思うことでも相手はそうは思っていないことが多々ありますよね。一度自分の価値観を外してその方の価値観で物事を考える癖をつけることが大切です。
無理やりはNG!怒りや屈辱の感情は認知症になっても消えない
前回の記事で、「ネガティブな感情」は脳に残りやすいということを書きましたが、入浴場面でも同じです。入浴拒否をする方に、半ば無理やり入浴させたことはありませんか?筆者は過去にあります。今となっては申し訳ない気持ちでいっぱいですが、そのときは入浴してもらうことがその方にとってもいいことだと信じていました。実際に終わったあとに「気持ちよかった」と言ってくれる方が多かったので、自分のケアは間違ってはないと思っていました。
しかし、無理やり入浴させられた方は必ず次のときも拒否をします。同じことが繰り返され拒否もより強くなってきます。これは、入浴後の気持ちよかったという「快」の感情よりも、無理やりお風呂に入れられたという怒りや屈辱などの「不快」の感情の方が記憶として残ることが原因だと考えられます。
その場しのぎの嘘は危険
介護の書籍などを読んでいると、入浴拒否がある方の対応として「看護師に皮膚の状態をみてもらいましょう」と言って服を脱がせるという方法や、洋服にお水などをかけて脱いでもらうなどの方法が書かれています。皆様はこの方法をどう思いますか?
筆者個人の意見としては賛成できません。仕方ない状況もあるかもしれませんが、ご本人にとって不利益になる嘘はついてはいけないと筆者は考えています。実際にこの「看護師にみてもらう」という声かけで入浴をしていただいていたお客様がおりましたが、最初の数回はなんとか入ってもらえたものの、結局は「いつもそんなこと言ってお風呂に入れるつもりでしょ!そんな嘘をつくならもうここ(デイサービス)には来ないよ!」と怒らせてしまいました。
運良くうまくいった場合があったとしても、その場しのぎの嘘は、長いスパンで考えたらいい方法とはいえないと思います。信頼関係を崩してしまったら他のケアにも悪影響が出てしまいますよね。
完璧なマニュアルは存在しない。まずは信頼関係をつくることから
すでに皆様もわかっていることでしょうが、介護にうまくいくケアマニュアルなどは存在しません。一度うまくいっても次はあっさり失敗に終わるなんてこともよくあることです。それが介護の難しさでもあり、楽しさでもあります。今回の入浴拒否も同じです。「入浴しない」という行動だけにフォーカスするのではなく、
- どうしてお風呂に入りたくないのか
- 何が不安要素になっているのか
- そもそも、どうしても今入浴させなければならないのか
など、色々な角度その方を観察し、考え、意見を出し合い、その方にとって一番いい方法を考えていくことが大切です。信頼関係が築ければ必ず入浴してくれる日がくるはずです。
認知症をもつ方はご自身の想いを言葉で伝えるのが難しくなってくるため、いつのまにかご本人の気持ちよりも、家族の「お風呂に入って欲しい」という希望が優先されてしまうことがあります。しかし、入浴は、生活の一部。ご本人が本当はなにを望んでいるか、私たちは何のために介護をしているのか、常に考えていかなければなりませんね。
前回記事:なぜ認知症を持つ人は嫌な思いをしたことはよく覚えているのか?


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