はじめまして。認知症看護認定看護師、認知症ケア専門士の市村幸美です。認知症治療病棟、デイサービス、地域などで認知症ケアに携わってきました。現在も実践、教育などフレキシブルに様々な角度から認知症ケアに関わっています。こちらのサイトでは筆者の経験や学んだことから読んで下さる皆様のお役に立てるような記事を書いていけたらと思いますので、よろしくお願いいたします。一回目のテーマは感情と記憶の関係と認知症をもつ方への関わり方をお伝えします。
目次
なぜ認知症の人は嫌なことをよく覚えているの?
認知症ケアを経験している人なら一度はこんなことを感じたことがあるのではないでしょうか?「認知症の人は嫌な思いをしたことはよく覚えている」というとことです。一生懸命お世話したことは全く覚えてくれていないのに、こちらが何か間違ってしまったり強い口調で話してしまったりしたことなどはよく覚えているような気がします。「忘れてほしいことは忘れてくれないのよね」なんて、つい苛立ちを感じてしまうこともあるかもしれません。なぜ認知症をもつ人は嫌なことは覚えているのでしょうか?今回はその疑問とこちらの受け止め方やケアのポイントについてお伝えします。
感情を伴う記憶は残りやすい
認知症では感情を伴う記憶は残りやすいと聞いたことがありませんか?それは脳の働きが大きく関係しています。脳の中に「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる部位があり、ここは人の感情のなかでも快・不快を感じる場所なのです。そしてこの扁桃体、記憶と関係が深いことで有名なあの「海馬」のすぐ近くにあるのです。ですから、快・不快などの感情を伴う記憶は扁桃体からすぐに海馬に伝わるため記憶が残りやすいのです。
ネガティヴな感情の方が強く残る?
少し自分に置き換えて考えてみて下さい。きっと楽しいとか嬉しいと感じたことはよく覚えているはずです。しかしそれ以上に嫌な思いをしたことを覚えていないでしょうか。子供の頃のことはほとんど覚えていなくても親に怒られて嫌な思いをしたことは大人になっても覚えているとか、長年一緒に暮らしているご夫婦でも結婚当初にご主人に言われた心無い一言が忘れられないとか。思い当たることがあるのではないでしょうか。
嬉しいとか楽しいという快の感情ももちろん残るのですが、一般的には快よりも不安や恐怖などの不快のほうが強く残ってしまうといわれます。その理由については諸説ありますが、恐怖や悲しみといった負の感情の方が、心身の健康(生命の安全)を脅かす危険があるから、扁桃体を刺激しやすいのではないかといわれています。
「どうせ忘れるから」は間違い!
認知症をもつ方をケアするときに、もしかしたら「どうせ忘れるから」と思っている人がいるかもしれません。認知症は記憶障害がありますので、忘れてしまうこともありますが、全てを忘れてしまうわけではありません。この部分を理解することが大切になります。先にも述べましたが嫌な記憶だけでなく、楽しかったことや嬉しかったことの記憶も残りやすいといえます。介護施設やデイサービスではイベントを行うことも多いと思いますが、イベントのことは皆さんよく覚えていらっしゃいます。不快な思いをさせず、快の記憶を残すような関わりをするというシンプルな法則を意識してケアするということ大切にしていきたいですね。
人として大切にしてもらえたと感じてもらえるケアを
快の感情を残すにはどうしたらよいのでしょうか。筆者は認知症をもつ方が「人として大切にしてもらえた」と思ってもらえるようなケアをすることだと考えています。
介護する側がしてあげたいことと、介護を受ける方がしてもらいたいことがイコールであるとは限りません。こちらのしたいことを押しつけても介護を受ける方が望んでいなければ快の感情は生まれません。ひとつひとつのケアで相手の立場になって考える癖をつけてみて下さい。きっと良い感情を残すようなケアが増えるはずです。
いかがでしたでしょうか。筆者自身も認知症ケアを始めたばかりの頃はコミュニケーションが上手く図れず認知症の方を怒らせてしまい、退院まで忘れてもらえず落ち込んだこともありました。今回の感情を伴う記憶は残りやすいという法則を味方につけて楽しい介護に繋がってくれたら嬉しいです。


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