「泥棒に育てた覚えはない」母の物盗られ妄想と闘った日々

by なななな 25050views

認知症の初期段階でよく見られる周辺症状の一つに、大事なものを盗まれたと訴える「物盗られ妄想」があります。認知症になると約11%程度の確率で現れるそうです。

アルツハイマー型認知症になった母は、買い物に行っては同じものをいくつも買ってくるといった些細な異変はありましたが、それ以外では日常生活は普通に出来ていました。家事はそれまで通り出来ていたし、友人ともよく出かけていたようです。
ただひとつ、明らかにおかしいと思うことがありました。
「お財布がない。」「お財布に入れていたお金がなくなった。」と言うようになったのです。

物盗られ妄想の兆候は「お金が足りない」から始まった

同居するようになってから、毎月一定額を食費として母に手渡していました。贅沢しなければ女性ふたり分としては充分なお金を渡していたつもりでしたので、それまで、足りないと言われたことはありませんでした。

それがそのうち、「お金がないから数千円ちょうだい。」としばしば言うようになりました。そんなに高いものを買っている様子はなかったのですが、食費が足りないなら仕方ない、と、はじめは言われるたびにお金を渡していました。ですが、さすがに何度も続くと結構な額になります。

そして「お財布(そのもの)がなくなった。」「お財布に入れていたお金がなくなった。盗ったんでしょ?返してよ。」と、私が疑われるようになりました。典型的な物盗られ妄想です。
「えぇっ、そんなことしないよ!」と否定しても全く聞く耳を持ちません。

一緒になって探すと、いつもと違う買い物バッグに入れていたり、戸棚にしまい込んでいたりと、大抵すぐに見つかるところにありました。
自分で入れたのに、そのことをすっかり忘れてしまっているのです。
そして、だんだんとその頻度が増えていきました。

「なんで実の娘の私が疑われるの?」

物盗られ妄想は、認知症による記憶障害などの症状と、本人の不安定な心理状態が重なって出てくる被害妄想が原因だといわれます。そしてその矛先は、家族などの身近な存在に剥きやすいという特徴もあります。

しかし、当時の私は、認知症についての知識はほぼなく、もちろん物盗られ妄想についての知識もなかったので、母の身に何が起きたのかわからず、ただ戸惑いました。

はじめは、ごくたまにだったのが、次第に週に1回、週に数回、ほぼ毎日、と頻度がエスカレートしていきました。

深夜に急に起きだして財布を探し始める母に声をかけると、
「娘を泥棒に育てた覚えはない!泥棒と一緒になんて住みたくない。」
と、毎回決まって怒鳴られました。

突然入る物盗られ妄想スイッチに、いつも怯えていたあの頃

母の妄想は、何がきっかけになるのか分かりません。たった今まで普通に穏やかに会話していたのに、急に「お財布がない。」と言い出すのです。

夜中に興奮して「これから交番に行って来る。」と言って出て行ったことも何度かありました。すぐ後を追いかけるとまた怒りだしますから、少し距離を置いて後をつけます。交番に辿り着いてお巡りさんと話をしても興奮したままのこともしばしばでした。こうなると数時間は帰れません。寝不足が続いて、翌日の仕事にも支障をきたします。

私は、夜寝られないという身体的負担と、実の母親から泥棒扱いされる精神的苦痛に悩むようになりました。いつスイッチが入るのかビクビクし、「今日は大丈夫だろうか。」と、母と顔を合わせることがストレスになっていました。

当時の自分に伝えたいこと。接し方を変えれば、必ず落ち着く日がくる

こんなにつらい思いをした物盗られ妄想は、今ではすっかりなくなりました。「お財布がない。」ということは今でもたまにありますが、私が疑われることはなくなりました。

なぜ物盗られ妄想が落ち着いたのか、明確な理由はわかりません。ただ、私が認知症について知識を得たことや、本人に対して「否定しない」、「困った行動もいったん受け止める」ように接し方を変えたことが、母を安心させて落ち着く一因になったことは間違いないと思います。

認知症の周辺症状は、いつまでも続くものではないそうです。
身の回りの世話や時間的な制約など、今のほうが介護にかかる負担は大きいです。でも、物盗られ妄想の時期が一番つらかったです。「物盗られ妄想はずっと続くものではない。いつか必ず落ち着く。」と、当時の自分に伝えてあげたいと、最近ふと思います。

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なな
会社員として働きながら、同居の母(アルツハイマー型認知症:要介護4)を在宅介護している。1971年生まれ。「親の介護は誰にでも起こりうる。だから、もっと多くの人に関心を持ってほしい。親が認知症になったって人生終わりじゃない。貴重な人生経験。」との想いから、ブログ「親が認知症になったら、どうする?」をゆるーく運営中。
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