「返事がある=会話が成立している」とは限らない?!

理由を探る認知症ケア03_2

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【老いを忘れていませんか?】
①立ち上がる
②一歩踏みだす
③歩く
というシンプルな動作も

頭でわかっていても
指令が届いて
動き出すまでに時間がかかるのが
認知症以前の老いというもの。

①何かを問いかけられて
②その意味を理解して
③自分の答えを返そう
と話し始めるまでに
時間がかかるのも同じことだよね。
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年を重ねると「時間がかかる」ようになる

 新品のパソコンも、電源を入れると瞬時に立ち上がりますが、長年使っていると、立ち上がりに時間がかかるようになります。人間も、だんだんと歳を重ねてくると、寝床から起き上がるのも、着替えをするのも、階段を昇り降りするのも、動作の一つひとつがゆっくりになるものです。これはもう、自然の摂理ですから、個人差はあっても、遅かれ早かれ、必ず変化として訪れます。

「話を理解する」のも時間がかかる

 そのなかでも、あまり目につかないことのひとつに、「話を理解する」ということがあります。話しかける側の人は気づきにくいことですが、高齢になると次のようなことが起きると言われています。

  • 相手の人が話すスピードが速くて、理解できない
  • 相手の人が話す量が多くて、理解できない
  • 相手の人が話す内容が複雑で、理解できない
  • 相手の人の声量や音程が聞き取りづらくて、理解できない      など

伝える側が気づいていない「前提」

 以前、電車の車内アナウンスに耳を傾けてみた時に、情報量が多く、複雑で、重要な情報とそれほど重要ではない情報が一気に流れてきて、「これでは高齢者には理解しにくいな」と思ったことがあります。そこで感じたのは、『これ(情報量、スピード、トーン等)で伝えたい相手に伝わるだろうという前提』があると、相手に配慮しているつもりでも配慮できていないのかもしれないということでした。

「認知症」があると「老い」を見落とされる?!

 「伝わるだろうという前提」に「認知症」という条件が加わると、「伝わらないのは認知機能が低下しているからだ」という解釈につながりやすく、「話を理解するのに時間がかかっているのかも?」と、老いに伴う変化に目が向きにくくなります。認知症がそもそも老化に伴って出現する確率が高くなるものであるにもかかわらず、なぜか老化に目が向かなくなるというのは、どうも変な話だと思いませんか?

「返事がある=会話が成立している」とは限らない

 会話の中で、「はい」「そうやね」といった返答があると、こちらが伝えていることはある程度通じていると思いますよね。ところが、話を十分に理解できないままに、返事をしていることも少なくないのです。
 介護者とご本人のコミュニケーションを観察していると、ご本人が話についていけなくて、途中から話を聞くことをやめている(諦めている?)ことが少なくありません。それでも、最後の「○○ですよね?」という問いかけには「はい」「まぁ、そうですね」といった返事をすることも少なくないのです。

「返事をする」のも時間がかかる

 一方、こちらの問いかけに返事が返ってこないという場合もあるでしょう。その場合にも、ついつい「理解できていないからだ」とらえがちですが、そうとは限りません。話は理解できているけれど、返事を決めかねているのかもしれないし、話は聴こえているけれど、自分に問いかけているということに気づかずにいるのかもしれません。場合によっては、「どう言えば、この人の気分をそこねずに、お断りできるかしら?」なんて考えている可能性も考えられるのです。

「老い」に配慮したコミュニケーションを

 わたしたちは、認知機能が低下しているから認知症の人とのコミュニケーションは難しいととらえがちです。しかしながら、それ以前にわたしたちが「老い」に対して配慮できるポイントはいくつもあります。

  • 相手の意識がこちらに向いていることを確かめてから、話しかけたか?
  • 相手が話についてこれているかどうかを確かめながら、話しているか?
  • 自分が使っている単語や表現が通じているかを確かめながら、話しているか?
  • 周囲の音が気にならない場所を選んでいるか?      など

 「認知症」という条件だけに縛られず、「老い」にも配慮したコミュニケーションを試してもらえたら、もしかすると、これまでとは違った結果に巡り会えるかもしれません。

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裵 鎬洙
コーチ 認知症ケアスーパーバイザー コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)講師 介護支援専門員実務研修・専門研修講師 【略歴】 1973年生まれ。兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後は介護施設で相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にてコーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、関わる人の内面の「あり方」が ”人”や”場”に与える影響の大きさを実感。介護に携わる様々な立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の⼤切さを発見する研修やコーチングセッションを提供。著書『理由を探る認知症ケア~関わり方が180度変わる本~』。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。
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