認知症の介護現場で音楽が重宝されるのはなぜ?

介護と音楽

「音楽の花束」のGOTOです。デイサービスや老人ホームに仕事で伺うようになり、それぞれの生活の中で、想像以上に音楽が使われていることを知りました。今回は、介護現場で音楽がよく使われる理由について考えました。

GOTOが高齢者施設でご一緒に歌う仕事を請け負うきっかけは、亡父との思い出です。昭和ひとケタ生まれの父は多くの歌を知っていて、仲間と肩を組んで歌い、時には涙し、そして子どものように笑っていました。GOTOは小学生のころから、メロディーと歌詞だけが書いてある小冊子で唱歌や寮歌の伴奏を弾きながら付き合っており、その思い出が施設での仕事へ向かう後押しをしてくれました。

とはいえ周囲に高齢者はいても、施設のことはなにも知らなかったGOTO。仕事を始めて、様々な発見がありました。

カラオケや、BGM…高齢者施設では音楽が浸透している

日常のレクリエーションプログラムは施設によって、また利用者の状態に合わせて違いますが、体を動かしたり、ゲームや手先を使った物づくりなどで脳や運動機能を刺激するなどの工夫がされています。そしてたいていどこでもカラオケタイムや歌の会、あるいはコーラスなど音楽プログラムが多く取り入れられています。音楽療法の時間をとっている施設も、思ったよりも多くありました。さらには生活のなかでBGMを使うことはほとんど当たり前で、ボランティアさんが作成されたオリジナルCDを置いている施設もありました。イベントも音楽絡みのものが多くあります。

GOTOは、音楽を使った取り組みがご高齢者や認知症を発症しておられるかたの生活にこれほど浸透していることに驚きました。介護職のかたに伺うと「楽しいから」という以外に「音楽は専門知識がなくても手軽に利用できる」「歌うことで日ごろあまり声を出されないかたが、声を出す機会になる」「会話が少ないかたでも、歌うことは好きだったりするので発散させてあげられる」など、音楽を使うことの良さをさまざまな角度から評価する言葉が聞かれました。
そのときは漠然と、ご高齢者の生活をよりよくするために音楽を大切にしているのだなと感じました。

音楽と介護施設

歌ってくれて嬉しい、と施設長さんが大きな声で泣いた日

施設での仕事を重ねるうちに、ある意味リベラルアーツとしての音楽の力強さを実感するようになりました。美しい、愛しいと感じる心、故郷を想う気持ち、喜びや苦難、自然に対する畏敬など時代を経ても変わらない過去から学ぶ普遍の智慧、それを学び、今にあてはめて考え、未来に生かすことがリベラルアーツ(教養)の意義(参考:菅野恵理子・音楽ジャーナリスト「海外の音楽教育ライブリポート」)とされ、音楽もそうだとされています。単純にただ一曲の音楽を共にすることであっても、その中でひとりひとりに全く違うことを連想させ、それぞれの思いを誘発し、活動を促す。日々歌う仕事をしながら、音楽がその人の心を開き、現実的にできないことが多いかたにもその心を限りなく自由にするという、大きな力を感じました。

あるとき、施設で首を深く垂れてじっと座っている男性がおられました。歌やお話をすすめておりましたところ、しばらく経ってから次第に首を上げられて、ついには大きな声で歌ってくださいました。するといつも笑顔で元気いっぱいな施設長さんが駆け寄ってそのかたの手を取り、大きな声で泣き始めました。「ずっと顔も上げず少しもお話ししてくれなかったのに、今日はこんなに大きな声で歌ってくれた。楽しかったのね、わたしも嬉しい」。この様子をみながらGOTOは嬉しそうに笑いながら歌っていた父を思い浮かべました。たくさんの歌を教えてくれた父に心の中で感謝し、この仕事に巡りあったことに喜びを感じました。
仕事仲間からもこうした特別な感動の場面がたびたび報告されており、そのとき担当者はGOTOと同じようにこの仕事の喜びを感じているようでした。

認知症の人にとって、音楽は、「安心」の拠り所になる

その後施設のかたにさらに話を聞くと「カラオケでいつも同じ歌を歌う利用者さんは、その歌を歌うと安心するみたいよ」「一人ではなかなか言葉が出ない人も、いつもの歌をみんなで歌うときは安心して一緒に歌えるの」など、音楽を使う理由にはよく「安心」という言葉が使われていました。
たしかに音楽そのものが構造と秩序をもっていることで聴いている人を心地よくし、安心感をもたらすということはよく言われていることです。「認知症ONLINE」に取り上げられている音楽療法士の佐藤由美子さんによると、「音楽が人の癒しに効果があるという考えは、古代エジプトにまで遡る」(参考:佐藤由美子の音楽日記「音楽療法Q&A」)のだそうで、その歴史が長いことにも驚きます。
「安心」して音楽に気持ちを委ねることで、心の自由を得られる瞬間があるのだということを感じましたが、そのうち認知症には「安心」ということがもっと大きな意味を持つことがわかってきました。

音楽の花束コンサート風景

認知症を知ることで見えてきた音楽の可能性

高齢者や認知症の現状を知りたくて、GOTOは昨年からいろいろな勉強会に行っています。ファミリーコンサートについては、自分自身の経験から情報や知識も入れやすかったのですが、高齢者に関する知識は浅い。現場に携わる医師、看護師、介護職、さまざまな分野のかたの見解を知る貴重な機会から、音楽ではなにができるのかを考える、たくさんのヒントをいただいています。その中で、GOTOはそれぞれの立場で高齢者が安心できる環境作りに尽力されているかたがたに出会いました。

例えば医療法人社団 悠翔会主催の「在宅医療カレッジ」では、毎回さまざまなテーマで研究を重ねながら真摯に取り組んでいる実践例を知ることができます。一方で、「患者さんの話を聞き、ご家族の気持ちに沿ってこのように接し、症状が改善されました」など一人一人の患者さんとの丁寧な「関わり」に関するお話が多く語られています。エイジング・サポート実践研究会主催の「エイジング・サポート・セミナー」でも、在宅医療の現場で働く医師から「認知症をあきらめない」というテーマでお話を聴く機会がありましたが、「患者というよりひとりの人として、その人の人生とつきあう」というような言葉を何度も聞きました。きらめき認知症トレーナー協会主催の「きらめき認知症シスター」の講座でも、認知症の進行を緩やかにする大きな要素は薬だけではなく、安心感を与える適切な関わり方だ、と強調されています。

こうしたことを知るにつれて、高齢者にとってひととして大切にされる、安心できる環境が大きく注目される中で、音楽が担う役割は決して小さなものではない、そしてまだまだもっと大きな可能性があるということを強く感じています。

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後藤 京子(GOTO)
「音楽の花束」代表。星美学園短期大学講師。東京音楽大学卒、同大学第2副科オルガン専攻修了、邦楽演奏コース長唄三味線専攻修了。1986年日本ピアノコンクール全国大会第3位、受賞記念演奏会出演、1987年読売新人演奏会出演。NHK邦楽技能者育成会に学ぶ。短大西洋音楽史講師、小学校音楽科教諭を経て2004年より「音楽の花束」のプロデュース活動を始める。2015年きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)取得。カトリック東京カテドラル関口教会オルガニスト。デイサービス「空の花 高井戸」取締役副社長。>>公式サイトへのリンクはこちら「音楽の花束」

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