コウノメソッドの「コミュニケーションシート」とは?家族の要望を正しく医師に伝えるツール

by 河野 和彦河野 和彦 7679views
【アイキャッチ】コミュニケーションシート

コウノメソッドでは、家族や介護者が、医師に対して正しく要望を伝えるための「コミュニケーションシート」を作成しました。今回は、この「コミュニケーションシート」について、発案の背景から具体的な項目、活用例について紹介します。

【これまでの連載コラム】
第一回:認知症は治る!近所のお医者さんも実践できるコウノメソッドとは?
第ニ回:周辺症状別に薬を使い分ける方法【コウノメソッドでみる認知症】
第三回:家族が薬の量を加減する『家庭天秤法』とは?【認知症の薬物療法】

医師にどう処方してほしいのか、患者側からきちんと伝えるべき

まず、私がコミュニケーションシートを発案した背景からご説明しましょう。ご家族にはよく講演で申し上げるのですが、漠然と「認知症を治してください」とかかりつけ医に言っても医師はしりごみするばかりだと思うのです。認知症は、その定義からして「進行性」ですから、中には「アルツハイマー型認知症治療薬を飲んだところで、結局は進行してゆくだけだから処方しない」と驚くような発言をする医師がいるとご家族から聞いたことがあります。同じ医師として情けないことです。

確かに、「認知症が一時的によくなったとしても、結局進行する」というのは事実です。記憶、判断力といった中核症状は確かになかなかよくなりません。しかし、介護家族からすると、一時的に治ることで、介護してきた甲斐があった、遠くの医師まで連れていった甲斐があったと思い疲れが吹き飛ぶと言うことがあると私は信じています。そして、中には長期にわたり好調を維持できる患者さんも出てきます。記憶はよくなっていないのに家族がとても喜ぶ治り方と言うものがあります。それが周辺症状を治すということです。

そこで重要なのが、具体的にどんな症状を治してほしいのか、患者側が申し出ることです。そこで開発したのが、医師への要望を正しく伝えるための「コミュニケーションシート」です。

「コミュニケーションシート」の具体的な項目

下記に紹介するのが、「コミュニケーションシート」です。こちらをコピーして医師に渡すことで、介護者や家族の希望が伝えやすくなります。※クリック後、拡大した画像をコピー(印刷)くださいませ。

コミュニケーションシート1

コミュニケーションシート2

シートⅠの「診断について」では、認知症かどうか診断が明確になります。MRI等、画像検査のできない開業医の場合、診断がつかない場合もありますが、真摯に対応する医師かどうかは分かります。「失礼かと想いましたが、インターネットに便利な用紙が出ていたので」と丁寧にお願いしても怒り出すようなら、その医師は認知症が苦手だと判断するのが賢明です。

シートⅡの「治療について」では、認知症の周辺症状を狙い撃ちすれば効率よく改善できる、ということがお分かりいただけると思います。患者を穏やかにしてほしいなら1、2、に、元気にしてほしいなら3、4、5、6に◯がつきます。

ときどき、「落ち着かせてほしい」と「元気にしてほしい」の両方に〇をつけるご家族がありますが、これは矛盾しているのでやってはいけません。ただし、昼夜逆転していて朝は元気で夜からおとなしくなる、いう意味なら、そのように口頭で医師に説明しなければなりません。このようなパターンの患者には、朝に興奮系、15時以降に抑制系の薬剤を処方するということはありえます。

シートⅡにおいて、3を選び、「夜に熟睡させてほしい」と家族が要望を伝えたにもかかわらず、「睡眠導入薬を飲ませるとよけいボケてしまうから処方できません」という医師は、介護者を楽にさせると言うコウノメソッドを知らない医師であり、あまり期待できません。睡眠薬は強すぎた場合は介護者が調整すると言う前提で、積極的に処方されるべきです。

コミュニケーションシートの活用例

この「コミュニケーションシート」には深い狙いもあります。各希望項目の右側に第一選択順に処方すべき薬剤名が掲げられているのです。これによって認知症を知らない医師でも、これを処方すればよいのかと学習し、家族の前で恥をかくこともなく、医師としてのプライドは保たれます。これは便利だからコピーして自分の外来ノートに貼っておこう、と思ってくれればこれ以上の喜びはありません。
 
また、このシートを見ると素人でもいま興奮系が処方されている、抑制系が増やされたという処方の交通整理ができます。怒りっぽいのに興奮系(ドネペジル、ニセルゴリン、アマンタジン)が処方されたのなら、それは医師の無知を示しています。そのまま飲ませるのは得策ではなく、別の医師に意見を聞きましょう。それほど、この認知症治療の世界では医師を信じてはならないのです。

教師として、近所の医師にかかってください

私は、世の中の医師たちが認知症を知らなさすぎると愚痴をこぼすご家族に、よくこんな話をします。

「教師として近所の医者にかかってください。こんな遠くの専門医に通うのも大変でしょうから、かかりつけ医が認知症を覚えてくれたら今後便利じゃないですか。私も若いころは何もわからなかったのです。大勢の患者さんを見させてもらうことで治せるようになりました」と。

そのとき、めぼしい医師を探すときの選考基準は、専門性ではないのです。性格として謙虚であり、いいものは採用し、患者から学ぼうとする姿勢のある医師であることです。

「コミュニケーションシート」は、改善率を高め、医師の教育ツールとしての素材にもなるということ、おわかりになったでしょうか。認知症は、中核症状だけでなく、周辺症状を治すことで家族は自分を評価すると言うことを知るよいきっかけになることでしょう。

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河野 和彦
1958年名古屋市生まれ。名古屋大学医学部大学院博士課程修了後、医療法人共和会共和病院老年科部長を経て、2009年より名古屋フォレストクリニック院長。新しい認知症ケア「コウノメソッド」の第一人者。認知症治療研究会副代表世話人も務める。代表的な著書に『完全図解 新しい認知症ケア 医療編』、『医者を選べば認知症は良くなる!』、『コウノメソッドでみる認知症診療』等、著書多数
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