「学習療法」で認知症の人が落ち着きを取り戻した話

by 佐藤 瑞紀佐藤 瑞紀 28814views
【アイキャッチ】学習療法

認知症の予防や改善に効果的と注目を集めている学習療法。2005年にはアメリカの学術誌『The Journals of Gerontology』にも実証結果が紹介され、認知症の非薬物療法において、科学的に効果が証明された、唯一の療法といわれています。私も、有料老人ホーム勤務時代、「学習療法」を取り入れたうちの一人。私の場合、治療としてではなく、レクリエーションの一貫として取り入れたのですが、その反応は興味深いものでした。「学習療法」というと、少し仰々しいですが、簡単に試せる内容だと思うので、ご家庭でも取り入れられるポイントについて、まとめてみたいと思います!

学習療法とはどんなもの?

学習療法とは、脳トレで有名な東北大学の川島隆太教授と、「くもんいくもん♪」でお馴染みのKUMON学習療法センターが開発した、認知症高齢者のための学習プログラムのこと。“コミュニケーションをとりながら楽しく脳の活性化を促す“もので、知識を得るための「勉強」ではありません。毎日、カンタンな読み書き、計算を繰り返すことで脳を刺激し、認知症改善に繋げていくものです。脳を刺激し、活性化させることで、

  • 集中力がついてきた
  • 意欲がわくようになった
  • 電話番号が覚えられるようになった
  • 夜間の徘徊が少なくなった
  • 話すことのつじつまが合うようになった

といった、認知症の症状が改善されたという事例が報告されています。

最近では、日本の学習療法の記録を追ったドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』がベルリン国際フィルム・アワードで「特別選考賞」を受賞するなど、欧米でも話題になっています。
僕がジョンと呼ばれるまで

複雑な計算より、カンタンな計算の方が脳を活性化する

東北大学・川島隆太教授が実施した研究によると、人はカンタンな計算問題を解いているときや声を出して文章を読む時に、脳全体が活性化することがわかったといいます。一方で、複雑な計算や一生懸命に何かを考えているときは、さほど活性化していないことも研究で解ったとのこと。その研究結果を活かして、「読み書き」やカンタンな「計算」を主軸にした脳のトレーニングが開発されたということです。

読み書き、計算による脳の活性化
赤い部分が多いほど脳が活性化されている状態 ※画像はKUMON公式サイトよりお借りしました

まずは、毎回20分。週1ペースから始めてみる

計算問題私が学習療法を知ったきっかけは、ケアマネとして勤務している際に、ご家族の方から「やってみてほしい」と言われたことでした。認知症が進み、訪問する度に少しずつ記憶を失っていく母親に対してやるせない思いでいたのでしょう。「私の名前すら忘れる母にやらせてみれば、少しでも認知症改善につながるのではないか。何とか取り入れてみてほしい。」と言われました。

それから学習療法について自分でも調べ、自分の名前だけでも書き続けることが出来るということを目標にしてみようとはじめました。

やり方としては、1回に学習療法のドリル5ページを3~4人の利用者さんと一緒に解きます。自分の名前はできる限り自分で書いてもらい、その後の問題は皆で一緒に声に出して読みながら解きました。1日20~30分、本来であれば毎日行うべきところですが、施設のスケジュールとして難しかったので「週1回からでもやってみよう!」とスタートしました。
学習療法_読み書き編教材例

ポイントは介護する方も「楽しむ」こと。最低限、自分の名前が書けることを目標に。

認知症の利用者さんたちに、いかに最後まで楽しくやってもらうかを常に考えていました。教材を一緒に読んだり、問題にはない部分をクイズ形式にして出題してみたり。そして、うまく名前がかけたり、計算が解けたら、思い切り褒めます。他の人から褒められたり、認められた言葉がけをされると、一瞬で脳は活性化するのだそうです。

また、人によっては気分が乗らずに途中で飽きてしまう方もいたので、そうした利用者さんには、途中で学習療法から折り紙に切り替えたりもしました。学習療法は毎日やらないときちんとした成果が現れないことは理解していたのですが、無理はせず、最低限自分の名前の書き方を忘れないことを目標に、楽しんで取り組めるように工夫しました。

学習療法を取り入れた効果

初めは、「なぜこんなことをするの?」と怪訝な顔をされる方もいましたが、やはり何人かで同じことをするのは楽しいらしく、概ね反応は良かったです。問題を解いて正解した時の達成感が心地良いのか、人によっては、徘徊したり、何度も同じことを尋ねて来る症状が落ち着いたりもしました。また、学習療法を取り入れるきっかけをくれたご家族が来ていた時にも、ちょうどやる機会があり、一緒に参加してもらいましたが、「まだ母は結構自分の名前も書けたりするんですね。」と安心された様子でした。

さらに、介護する方にとっても、学習療法を行うことで、観察力が向上し、利用者の変化に気付くのが早くなるといった効果もあるのではないでしょうか。「○○さんは、もしかしたらあれもできるかもしれない!」といった、利用者の可能性をより引き出そうとする“洞察力”も自然と磨けるように思います。

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佐藤 瑞紀

佐藤 瑞紀

元有料老人ホームのケアマネジャー。22歳で大学卒業してから約12年、老人福祉の世界で経験を積む。約10年介護士として高齢者と関わり、その後生活相談員を経てケアマネジャーとして着任する。高齢者1人1人とコミュニケーションを取りながらケアプランを作成することで、QOLの向上が少しでも実現出来るように考えてきた。現在は結婚を機に退職しており、主婦として日々奮闘中。
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