いつも優しく、なんてムリ。「認知症『ゆる介護』のすすめ」著者・柳本文貴さんインタビュー 

【アイキャッチ】認知症『ゆる介護』のすすめインタビュー

認知症の人には、決して怒ったりせず、やさしく接しましょう―――。そうした介護の“あるべき論”を「そんなのはムリ」と一刀両断するのは、約20年間の介護経験を持つ介護のプロで、「認知症『ゆる介護』のすすめ」(メディカ出版)著者の柳本文貴さん。本書は、介護をまじめに一生懸命やりすぎて煮詰まってしまいがちな家族に向けて、認知症の人との関わりがラクになる脱力ケア『ゆる介護』のコツが書かれています。「ゆるくてテキトーにやったほうがうまくいく」という柳本さんの介護観について、詳しくお聞きしました!

認知症ケアは「ダメ元」の精神で。10回試して3回上手くいけば上出来

老健3年、認知症グループホーム4年、在宅ケア15年介護経験を通して、柳本さんは、「認知症ケアに“誰にでも通用する正しい答え”は存在しない」と気づいたといいます。「ケアの方法は色々あります。本もたくさん出ています。でも、いざ認知症の人と接して身に沁みたのは、セオリー通りに全然うまくいかないということでした」そんな時、ダメで元々、というスタンスで接すると、肩の力が抜け楽になる、と柳本さんはといいます。

「例えば、ホームからふらりと出て行ったおばあちゃんを追いかけて、途中で出くわした風に声をかけて戻ったり、近くの公民館に寄って挨拶してチラシを集めて帰ったりすると、一旦は落ち着くけれど、すぐまた出ていこうとします。さらに料理をしたり洗濯物を畳んだりして気を紛らわせても、やっぱりすぐ出ていこうとされる…介護は、そういうことの連続。10回中3回うまくいけば上々です。期待するほど、追い込まれてしまいます」

話のりピーとは、親身に聞き流す
身内の人は、本人に記憶障害があることを頭では分かっていても、いざ目の前の言動に触れるとカッとなってしまいがち。「すぐ忘れること」を忘れないように、怒る前に一呼吸おいてみましょう。

認知症の人の困った行動は、「常識の見直し」と捉えてみる

現在柳本さんが代表を務めるNPOグレースケア機構は、在宅介護を自費と制度を組み合わせて柔軟に支えているヘルパー集団。長時間や泊まりのケアもあり、訪問先の家庭では、介護を抱え込んでいる家族を目の当たりにする機会も多いといいます。「これまでの生活習慣や価値観にしたがって、いろんな決まりごとを自分のなかにつくり、滞りなく遂行することがお母さんのためなんだ、と思い込んで、結果的に疲れきっていたりします」

しかし、同じ介護状況でも、捉え方次第でまったく見え方が異なってくる、と柳本さんは言います。例えば、本書の中でも登場する『話のリピートは、親身になって聞き流す』。真っ向から向き合うと噛みあわずイライラすることも、一歩引いて「でたでた」と受け止められるだけで、お互いずっと楽になるのだとか。「他にも、”収集癖”と言わずに『コレクション』と言ってみたり、同じものを買ってしまうのはある種の『大人買い』と考えたり。ちょっと度を越したり、フツーとは異なるので困るのは当然なのですが、”常識の見直し”を提案していると思えれば、自分のこわばりがゆるんで、煮詰まらないで済むかもしれません」

「すぐ忘れること」を、忘れないで
大事なのは、返事の中身よりも聴き方。相手の言葉を繰り返しながら、表情を真似て、いまの気持ちのほうを受け止めます。お互いへとへとになる前に、親身になって聞き流しましょう。

「自分の親にはゆるい気持ちになれない」という声もある

本書の中で、一貫して脱力した『ゆる介護』を奨めている柳本さんですが、「仕事としての介護なら割り切れるが、自分の親にはゆるい気持ちになれない」という声もあるといいます。

「それはよくわかります。なかなか難しいですよね。たぶん、どこかのタイミングでご家族も、いい意味で”諦める”ときがくる。認知症を否定しないで、認められるようになるときだったり、自分が子どもだったときの親との関係を振り返ったり、これからさらに心身機能が落ちて看取りに至るまでの見通しに気づいたり…。そんなきっかけで、いつか気がつくとゆるい関わりができるようになっています。なので、これから介護が迫ってくる方には、あらかじめゆるい身構えを知り、煮詰まっている方にはちょっとだけ介護の息抜きになればいいなと願っています」

予防や治療よりも、認知症になっても楽しく暮らせる社会づくりを

昨今、認知症の早期発見や予防の重要性が強調される世の中の流れについて、柳本さんは「あまり頑張って必死にやることではないのでは」と話します。「予防や治療に取り組むこと自体は悪いことではないのですが、過剰に期待して頑張りすぎると、ボケ始めた時の本人や家族のショックが大きく、認めたくない・否定したい心情から、介護の難易度も上がります。実際、食事や生活習慣に気をつけたり、趣味や人づきあいが多いような人でも、ごくナチュラルに、なるときにはなりますから。治療についても正常圧水頭症など、いくつかの治るタイプのものを除けば、進行を遅らせるという薬の調整です。効くこともあれば、副作用の出ることもあります」

予防や治療よりも、柳本さんが大切とするのが、「認知症になっても、なるべく変わりなく、楽しく暮らしたい」という考え方。「認知症を『なってはいけないもの』と捉えずに、周りがどのように視点を変えたり、接し方に工夫をしたら、認知症の人も安心して楽しく暮らせるか。『認知症は治らなくても機嫌は直る!』です。
誰もが認知症になりうるわけですから、社会のゆるさや、”常識”の幅を広げておくことができれば、もっと住みやすくなると思います。認知症の人に限らず、ほかの難病や精神疾患や知的障がいの人たちにとっても」

認知症の人とともに、ゆるゆると、時にテキトーに暮らしていく『ゆる介護』のスタンス。いよいよ団塊の世代も本格的に認知症世代となり、予備軍を含めて認知症800万人時代といわれる中、『ゆる介護』は、この大介護時代を乗り切るのに欠かせない知恵になるのではないでしょうか。

▼柳本さんの『ゆる介護』の技術をあますところなく紹介した本書。はじめて介護に向き合う人、いま、まさにストレスを抱えて煮詰まっている人、将来の親の介護が心配、という人にもおすすめの1冊です!

★今回お話を伺った方

柳本様プロフィール写真
柳本文貴(やぎもと・ふみたか)

1970年生まれ新潟県新潟市出身。大阪大学人間科学部卒。
NPO法人グレースケア機構代表。介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。障がい者の作業所や人材派遣企業、老人保健施設、認知症グループホームを経て、2008年グレースケア機構を設立。長時間・泊まりケア、娯楽ケア、医療的ケアなどの自費サービスと訪問介護、居宅介護(障がい者)、ケア付き住宅、研修事業などにも取り組む。指名制や独立型のヘルパーを支援。成年後見も受任。できない理由より、するための工夫を探すのがモットー。

NPOグレースケア 公式サイト

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認知症ONLINE 編集部

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