「介護うつ」、「介護虐待」といったニュースを目にすることが多い昨今。その背景にあるのは、追い詰められた介護者たちです。特に認知症介護の場合、家族の戸惑いは大きく、「他人には任せられない」と親につきっきりで介護をして自身が潰れてしまうケースが多いようです。家族が追い詰められない介護をするためには、何が必要なのでしょうか。今回は、家族で協力して介護に向き合っている、あるご家族に『追い詰められない介護』についてお聞きしました!

目次
ポイント1:信頼できるかかりつけ医を見つける
元々、人付き合いが上手で、活発で、運動も好きだったという、いとさんが認知症になったのは、10年前。82歳の時でした。「どれだけ認知症になりにくい生活を続けていても、なる時はなるんだなぁと思いました」そう語るのは、長男の和夫さん。当時、その症状はもの盗られ妄想から始まったといいます。「最初は、財布とか通帳とか、お金に関わるものが盗られたと言い出したので、一緒になって探していたんです。ただしばらくすると、盗られたものが物干し竿だったり、庭にあったバケツになって…。これは変だと気付いて、病院に連れて行きました」
認知症の症状がではじめた初期に、信頼できる医師と出会えたことが、その後の介護に大きな影響を与えたと、長女の佳苗さんは言います。「かかりつけのお医者さんは、診断して薬を処方しておしまいではなく、認知症の基本的な知識や、認知症が進行してくると出てくる症状について、予め家族に教えてくれました。家族の心に余裕が生まれたきっかけになったと思います」
ポイント2:躊躇せず介護のプロの手を借りる
いとさんの認知症の症状が進むと、徘徊と呼ばれるひとり歩きもはじまりました。徘徊の末、警察に補導されることもあったといいます。いとさんが家から出ていこうとする度、追いかけていたのは同じ家で暮らしていた息子夫婦でした。当時を振り返って、「時には、感情的に怒ってしまう時もあった」と語る長男の和夫さん。そうした中で、飯塚家のみなさんが共通して大事にしていたのは、『介護する家族の方が潰れてしまわない』ことでした。
「使える介護サービスは総動員で使いました。毎日デイサービスに通って、時にはショートステイも。介護保険内に収まらなかったものは、自費で補いました。行く先々で人と関わること自体は本人も嬉しそうでしたし、何より家族が潰れてしまったら、元も子もないですから」
出来る限り早いタイミングで介護認定を受けて、ためらわずに介護のプロの力を借りる、というのは、家族だけで介護を背負い込まないために欠かせないステップのようです。
ポイント3:深刻にならない
「認知症をタブーとして受け止めるのではなく、時にはネタにして笑ったっていいと思う」と、長女の佳苗さんは話します。「もの取られ妄想の犯人にされたこともあったのですが、今では『泥棒にされちゃったよ(笑)』と家族で笑う鉄板ネタになっています。認知症の初期は、母の様子に戸惑うこともありましたが、こちらがオロオロしたって、状況は何も変わらない。だったら、皆で笑い飛ばした方がいいと思うんです」
また、深刻な雰囲気は本人にも伝わるといいます。佳苗さんは続けます、「認知症になって、新しいことを記憶することはできなくても、感情はそのまま残っているんです。その場の雰囲気が和やかだと本人も笑うし、深刻だと不穏になる。そういう意味でも、家族が笑顔でいることはとても大事だと思います」
ポイント4:おしゃれをする
もう一つ、家族が大事にしているのは、いとさんの身だしなみに気を遣うことだといいます。長男の和夫さんは、「昔はおしゃれだったのに、歳をとると無頓着になって地味な服ばかり着る、ということがよくあります。けれど、それでは気力もなくなって、認知症も進んでしまうんじゃないかと思います。なので、母に着せる服はなるべく明るい色で、洒落たものを、と思っています。そうすれば、本人も気分よく過ごせますし、周りも気持ちが明るくなります」
現在は、家から近い特別養護老人ホームに入所しているいとさん。職員の方からもよく「おしゃれですね」と褒められるそう。取材時に着ていたのは、昔いとさんが自分で編んだという綺麗な白色のカーディガン。身綺麗ないとさんには、悲壮感が一切なかったのが印象的でした。
ポイント5:介護の役割を、家族でシェアする
家族介護に必要不可欠だといわれるチームワーク。飯塚家では、普段の身の回りの世話役は長男妻の雅子さん、病院への送り迎え役は長女の佳苗さん、事務手続きや連絡調整役は長男の和夫さん…というように、それぞれができることを分担していたといいます。
「それでも、一番負荷がかかっていたのは、同居していたお義姉(長男妻)さんだと思う。本当にありがたい」と語るのは、長女の佳苗さん。主介護者へ感謝やねぎらいを当人にきちんと伝えることも、家族介護においては欠かせないように感じました。
チームプレーに必要なのは、家族間のコミュニケーション。飯塚家では、月に1度はいとさんを囲み、親族が集う場を設けています。長男の和夫さんは、「困った時だけ連絡し合うんじゃなく、日頃から顔を合わせて他愛のない話をしていて、その延長線上で介護の話もする。自然体だからうまくいっているのかもしれないですね」と語ります。
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今回、飯塚家のみなさんに話を伺って驚いたのは、飯塚家のみなさんがとても明るく、楽しそうに介護経験を語ってくれたこと。家族が創意工夫することで、認知症が“つらい”どころが人生の深い楽しみにも変えられることが分かりました。そして、「追い詰められない介護」に最も必要だと感じたのは、“介護はこうであるべき”という思い込みから抜け出し、周囲と助けあうこと。家族と協力し合うのが難しい場合でも、介護サービスや近隣の人、ボランティア、家族の会など、まわりに助けを求めやすい社会を築いていくことが必要ですね。

※本記事内でご登場いただいたご家族の方々は、プライバシー保護の観点から全て仮名を使用しています。

認知症ONLINE 編集部

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