近年、認知症を持つ人の運転が、大きな社会問題になっています。年々、増え続ける認知症のドライバーによる自動車事故。今回は、認知症と車の運転について、現状の課題と、今後の解決策についてまとめてみました!
目次
認知症が疑われる男性の6割が「車を運転」を続けている現状
アルツハイマー病 | ピック病 | 血管性認知症 | |
---|---|---|---|
記憶 | いつ、どこでいった記憶を思いだせない | 言葉の意味、物の名前が分からず会話が通じない | いつ、どこでいった記憶を思いだせない |
場所の理解 | 侵される | 保たれる | 侵されることもある |
運転行動 | ・運転中に行き先を忘れる・駐車が下手になる | ・交通ルール無視・運転中のわき見・車間距離が短くなる | ・運転中にボーっとする・ハンドル、ブレーキの操作が遅くなる |
上記は、認知症の原因疾患別による症状の違いと運転行動の特徴です。(国立長寿医療研究センター「家族介護者のための支援マニュアル」より)認知症は、運転に必要な様々な能力を低下させます。
今月、認知症の疑いのある男性高齢者の6割が、自動車運転を続けている大規模調査を国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の研究チームがまとめました。調査は、2011~13年、大府市と名古屋市の65歳以上の住民約1万人に実施したもの。
また、今年5月の大分県の発表によると、県内の75歳以上で運転をしている人のうち、認知症のおそれがある人は433人にものぼることを発表しています。
認知症になっても、多くの人が運転継続していることが分かってきています。特に地方に住んでいる場合、車は生活するのに欠かせない交通手段。認知症の自覚有無に関わらず、免許を手放せない人が多い事実が浮き彫りになっています。
2015年6月、道交法改正が成立。75歳以上の認知症対策強化へ
これまでの道路交通法では、75歳以上が運転免許を更新する際、交通違反があった人のみに医師の診断を義務づけ、診断の結果、認知症と判断された場合に免許の停止や取り消しが行われていました。ただ、交通違反がない場合は医師の診断を受けずに免許が更新されており、認知症が見逃されている可能性が課題になっていました。
この現状を重くみた警視庁により、道交法の改正案が、今年6月11日にいよいよ成立。改正案では、
- 75歳以上の場合、3年に1度の免許更新時に、認知機能の検査を実施
- 「認知症の疑いあり」と判断された人全員に医師の診断義務が発生
- 発症していたら免許を停止または取り消し
改正案は2017年までに施行されるとのこと。政府は、この改正案によって認知症の人の自動車事故を減らす狙いです。
ただ、この改正案においては、「事故を未然に防ぐ対策になっていない」、「認知機能検査自体、3年に1回という頻度が少なすぎる」といった批判もなされています。
親の車の運転、円満にやめてもらうには?
もの忘れ等、認知症の家族をもつ人にとって「どうやったら納得して運転をやめてもらえるか」は、多くの人が頭を悩ませる課題。やめて欲しいと家族が訴えた結果、本人が断固拒否したり、ふさぎこんでしまって、うまくいかないケースが多いようです。
40歳以上のドライバーに対して、運転の中止をためらう理由を尋ねた結果、7割の方々が、「自身や家族の移動手段を失うため」と回答していましたが、残りの3割が、「生きがい」や「楽しみ」を失うため、と回答していました。
参照元:国立長寿医療研究センターによる調査(2015)
この調査結果からも、家族の運転中止を考えるには、車に代わる移動手段を確保するのと同時に、高齢者にとっての楽しみや生きがいを、運転以外にも見つけられるように、サポートしていくことが重要さが分かります。
知っておきたい!免許の自主返納で受けられる特典

一見すると、運転免許証そっくりのこちら。これは「運転経歴証明書」といって、免許の有効期限内に自主的に返納した人がもらえる証明書です。全国の運転免許センターや、警察署で申請すると発行してもらえます。
「自動車等の運転はできません」
と明記してあります。認知症の家族がまた運転したいと言いだしても、これを見せることで、納得してくれる確率が高まりそうですね。多くの自治体では、高齢者の免許証の自主返納を促すため、下記のような特典を設けています。
- タクシー、バスの運賃割引
- 商品券の贈呈
- デパートでの商品割引
- レストランの料金割引
各自治体では、運転免許証を自主返納した方を対象に支援サービスを提供するお店を募集する等、自主返納を応援する取り組みは今後も広がりそうです。
認知症の家族がどうしても運転をやめてくれない場合
家族が免許返納を促しても、どうしても応じてくれない場合、家族はどうするべきでしょうか。
- 車自体を処分する(他の人に譲る、買い取り、廃車手続き等)
- 車の鍵を隠しておく
- ガソリンを抜いておく
- バッテリーを外しておく
- タイヤの空気を抜いておく
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など、物理的に運転ができなくなる対策をしておく、という対策が現実的です。
どうしても乗り物がないと普段の生活に支障をきたす場合は、自動車ではなく、スピードが出ないシニアカーを用意するのも一つの手段です。
さいごに
一歩間違えば、人の命を奪いかねない車の運転。家族としては、一刻も早くやめてもらえるよう願いたい一方で、長年続けてきた運転をやめることは、本人にとっては大きな決断です。「これまで運転してくれてありがとう」とねぎらいの言葉をかける、自動車に代わる移動手段や、運転に代わる新しい楽しみを提案する、といった風に、納得して運転を卒業してもらえるようにサポートしていけると良いですね。
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認知症ONLINE 編集部

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