初めまして、GOTOです。音楽活動に関してものを書くときの一人称は、たいがいこれを使っています。
「音楽の花束」という名前でコンサートや音楽イベントのプロデュースをしています。
元々小規模のコンサートを得意としており、大きなホールに出向くことが難しいかたにも、舞台で活躍中の演奏家による本格的な演奏を気軽に楽しんでいただけるようにしたい、そんな願いを持って活動してきました。そして現在は、ご高齢者や認知症のかたに向けてもコンサートをご提案しています。
音楽で開く心の扉とは
2015年5月、「音楽の花束」初めての高齢者施設でのコンサートは、邦楽器である 二十五絃箏と尺八の演奏家とともに世田谷区の老人ホームで開催しました。
施設居住者に地域のかたや介護関係の知人など、予想以上に多くの参加者に恵まれました。途中気持ちよさそうにご一緒に歌を口ずさむかたがおられたり、伝説の箏曲演奏家 宮城道雄の演奏を聴いたというお話しが出たり、演奏後には「以前習っていた箏(こと)をもう一度始めようと思います」と語ってくださったかたもありました。
「音楽は心の扉を開く」とはよく言われることですが、この日もまさにしみじみとそれを感じました。「認知症なので参加しても長くはいられないかもしれません」と言われた居住者のかたもどなたも退席なさらず、1時間ほどのコンサートを最後まで楽しんでくださいました。
【音の花束の活動の一部を、下記動画からご覧いただけます】
音楽には、認知症の人の「孤独」を解き放つ力がある
GOTOは10年ほど、ファミリー向けのコンサートを中心に活動をしてきました。スタッフは子育て仲間のボランティア、会場は子どもの通っていた幼稚園、お客さまは友だち親子というスタイルです。気軽に来られるように会場は幼稚園の小さなスペースで、GOTOが伴奏もMCも担当します。
そんなスタイルであっても、真心を込めたほんとうに素晴らしい演奏家の演奏やお話しは、その場にいる親子、赤ちゃんでさえも楽しませ、感動を生むということを回を重ねるごとに実感してきました。地元のイベントや学校の授業のお手伝いまでご依頼を受けるようになるにつれ、音楽が人を動かし、地域をつないでいくことには驚くばかりです。
この「人を動かす音楽の力」について、ある音楽療法士に勧められて読んだ本にこれはと思うことがありました。「高齢者に音楽を療法的に活用することについて」という項目の中に、「人は皆、共通の目的を分かち合って集まる人々の集団の一員となりたいという要求を抱いている」(「高齢者のための療法的音楽活用」 アリシア・アン・クレア著より引用)が、認知症その他の症状、また介護をする側の人もそれぞれの事情で人から見捨てられたようになり、孤立していく。知人や友人さらには家族とのネットワークも崩壊してしまう。そこには何らかの援助が必要であり、「音楽療法はそのひとつの援助方法だ」(同著より引用)としています。
音楽は安心感や心地よさを与えるとともに「音楽は、人々が共通の経験をする機会を提供する。それは人と人との関係の基本になる」(同著より引用)故に、社会的な関係の基本ときっかけを提供することに繋がるということが書かれていました。
GOTOは音楽療法士ではありませんし、手がけていることは音楽療法ではありません。しかし上記の記述を読みますと、音楽そのものがコミュニケーションであり、認知症とその周辺の人たちに少なからず助けになる、そんな力を確かに持っているのだということがわかります。
「ああ、うれしい!!」認知症の深い女性が大きな声で言ってくれた
老人ホームのコンサートを終えると、ご入居者さまが車椅子で散策しておられ、笑顔で「ありがとう」と握手を求めてくださいました。
おひとりの方はかなり認知症が進んでおられる様子でしたが、近づくとGOTOの頬を両手で包んで大きな声で「ああ、うれしい!!うれしかったわ!」と笑顔を向けてくださり、GOTOも「わたしもうれしいです!」と答えました。
GOTOも演奏家も、コンサートに参加した皆さんからの「ああ、うれしい」「聴けてよかった」という言葉を何よりの糧にしてこの活動を続けてきています。記念すべき初めての高齢者施設コンサートを終えた、この時に聞いた「うれしい」という言葉は他の何よりもありがたいものでした。
本当によい音楽を身近に楽しんでいただきたい。GOTOと演奏家たちのその願いが、お客さまにしっかり届いたのだという充実感がありました。
認知症の人と向き合うコンサートをしていきたい
これまでファミリー向けコンサートで培ってきたスタイルで、高齢者、そして認知症のかた、さらには介護に携わるかたにも喜んでいただける、施設でのコンサート を実現していこうと考え始めた昨年から、GOTOはある種のモヤモヤと戦っています。「音楽っていいよね」「すごく大事だと思う」という言葉は多く、各地の高齢者施設で奮闘している音楽療法士もおられますし、音楽に関連するプログラムはどこでも盛んです。
その中で本格的なコンサートはきっと大切な役割を持っているに違いないと思いながら、具体的にどうすればよいかということはどこかまだ曖昧でモヤモヤしています。答えのひとつは世田谷の老人ホームでいただいたように感じますが、全てではありません。モヤモヤの解決に少しでも繋がればと考え、GOTOは最近、認知症の基礎知識を広く伝えるための「きらめき認知症シスター(きらめき認知症トレーナー協会認定)」を取得しました。
次回以降は不器用なGOTOの高齢者や認知症と向き合うコンサートのための試行錯誤、紆余曲折の取り組みを、少しずつ書かせていただきます。どうぞお付き合いくださいませ。


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