脳血管性認知症の基礎知識

脳血管性認知症の基礎知識

脳血管性認知症は、認知症の代表的な疾患のひとつ。アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症と並んで三大認知症とも呼ばれます。脳血管性認知症の原因や症状の特徴、介護のポイント、治療法について解説します。

監修医 プロフィール

笠間 睦(かさま あつし)
1958年生まれ 藤田保健衛生大学卒業、医学博士/日本認知症学会専門医・指導医/日本脳神経外科学会専門医/榊原白鳳病院 診療情報部長/脳ドックに携わる中で認知症の早期診断・早期治療の必要性を感じ、1996年全国初の「痴呆予防ドック」を開設。2010年から2015年にかけて朝日新聞の医療サイトアピタルにて「ひょっとして認知症?」を執筆

脳血管性認知症とは

脳梗塞や脳出血が原因で発症

脳血管性認知症とは、おもに脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害によって発症する認知症です。最近では血管性認知症とも呼ばれます。

アルツハイマー型認知症は脳自体が変化する変性性認知症なのに対し、脳血管性認知症は血管障害を受けて出現した認知症を総称したものです。

脳の血管がつまる脳梗塞や血管が破れる脳出血などの脳血管障害から3ヶ月以内に急激に発症するのが典型的な脳血管性認知症です。しかし、症状が現れないうちに脳血管障害を発症している例も多く、期間の設定は難しい面もあります。

生活習慣病を持つ男性に多い傾向

健康な女性に多いアルツハイマー型認知症に対して、脳血管性認知症は、動脈硬化が進んだ男性に多い傾向があります。以下の持病や発病歴、生活習慣があると、脳卒中が起こりやすく、発病のリスクが高まります。

なりやすい人が持つ主な特徴は次の通りです。

  • 糖尿病
  • 高コレステロール血症(脂質異常症)
  • 心房細動(不整脈)
  • 高血圧
  • メタボリックシンドローム
  • 煙草を吸う
  • 睡眠時無呼吸症候群

1980年代までの日本では、高血圧や生活習慣病のリスク啓蒙が浸透しておらず、脳血管障害だけで重い認知症になる人も少なくありませんでした。その後、国をあげての健康促進によって生活習慣を気にする人が増えたことで、脳血管性認知症の全体数は少なくなったと言われています。

本人も気づきにくい多発性脳梗塞に注意

脳血管障害のなかでも、もっとも原因になりやすいのが、脳梗塞です。救急車で病院に担ぎ込まれるような大きな脳梗塞ではなく、細い血管が障害されて起きる「小血管性認知症」とよばれるタイプが約半数を占めます。

小血管性認知症には主に、小さな脳梗塞が多発する多発性ラクナ梗塞と、広範囲に虚血性病変が生じるビンスワンガー型血管性認知症があります。

一つひとつのラクナ梗塞は、目に見える後遺症が乏しいことも多く、ときには本人さえも発症したことに気づかない程度の軽い病気です。しかし、病巣数が増えるに従い高確率で脳血管性認知症を引き起こします。

脳血管性認知症がたどる経過

アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症などの変性性認知症は、長い潜伏期間を経てゆるやかに進行します。これに対し、脳血管性認知症は、脳梗塞や脳卒中になった日をきっかけに3ヶ月以内に急激に発症し、状態のダウンがはっきりとわかる階段状に進行するのが特徴です。一般的に、脳卒中等の発作が再発するたびに悪化していきます。しかし、小血管性認知症では緩徐進行性の経過をたどることが多々あり注意が必要です。

脳血管性認知症の進行

アルツハイマー型認知症との比較

アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の違いについて、次の表をご参照ください。ただし、合併例も多く、識別が難しい面もあります。

種別 アルツハイマー型認知症 脳血管性認知症
年齢 75歳以上に多い 60歳から
性別 女性に多い 男性に多い
経過 ゆるやかに進行する 脳梗塞等の発作を機に段階的に進行
病識 ほとんどない 初期にはある
神経症状 初期には少ない 手のしびれ、麻痺が多い
持病との関係 持病との関係は少ない 高血圧などの持病が多い
特徴的な傾向 落ち着きがない 精神不安定になることが多い
認知症の性質 全体的な能力の低下 部分的な能力の低下(まだら認知症)

※上記表は『Navigate神経疾患』石橋賢一、2013より引用

脳血管性認知症の症状

脳血管性認知症の場合、脳内のどの部分にダメージを受けたかによって、個々の症状が変わります。ここでは、脳血管性に特徴的代表的な症状をご紹介します。

まだら認知症

まだら認知症とは、症状がまだらに出る現象です。正常な細胞と、脳血管障害で壊れた細胞があるため、障害の受け方に差があることが原因でおこります。例えば、

  • 記憶障害は軽度にとどまることが多いが、実行機能障害、注意障害などが目立つ
  • 午前はハキハキ話せたのに、午後はボーっとして言葉が出ない
  • 朝はできた着替えが夜にはできなくない

日や時間帯で、できる時とできない時の差が激しかったり、急速に症状が現れ始めるといった症状が見られたら、注意が必要です。

運動機能障害

初期の段階から運動機能に障害がでることが多いのも、脳血管性認知症の特徴です。運動機能とひとことで言っても、歩行障害や言語障害、嚥下障害など範囲が広く、例えば次のような症状です。

  • うまく物を飲み込めない嚥下障害
  • 手足のしびれや片麻痺
  • パーキンソン症状(すくみ足、小刻み歩行、無動、筋固縮)
  • ろれつが回らない
  • 尿失禁

注意障害

血管性認知症では、前頭葉機能の低下により注意障害が起き、集中力が保てず疲れやすくなったり、逆に集中はできても他の対象に適切に注意を向けられないといった症状が起きます。複数の刺激に対して注意を払えないため、複数のことを同時に行う二重課題(デュアルタスク)が遂行能力の低下が生じます。

日常の認知症診療においてよく実施される長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)では、記憶や見当識、言語の評価項目が重点化されるため、脳血管性認知症に特徴的な注意障害を評価しにくい側面があることを念頭に置く必要があります。

遂行機能障害(実行機能障害)

遂行機能障害により、作業を順序立てて効率よく行うことができなくなります。要するに、「段取り」が悪くなります長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)においては、「野菜の名前」を答えてもらうという設問があります。これは言葉の流暢性を調べる検査です。遂行機能障害があると野菜の名前がスラスラ言えなくなります。

抑うつ状態

気分の落ち込みが激しい抑うつ状態がみられます。特に初期は「できないこと」や「わからないこと」の自覚がはっきりとしている傾向があります。そのため、自身の状態にショックを受け、無気力・悲観的・うつ状態になることも多くあります。夜になると意識障害を起こして取り乱す「夜間せん妄」も起きやすく、昼夜逆転する場合もあります。

情動調節障害(感情失禁)

喜びや怒り、悲しみといった感情のコントロールが効かなくなる情動調節障害(感情失禁)は、脳血管性認知症の最も大きな特徴のひとつです。これは、感情機能をつかさどる前頭葉の血流が阻害されることが原因で起こります。例えば、次のようなことです

  • あいさつをしただけで泣く等、その場にそぐわない感情が出る
  • 些細なことで怒りの歯止めが効かなくなる
  • 喜怒哀楽の変化が激しい
  • 喜怒哀楽の間に表情がなくなることがある

自らの意思に関わらず、脳に刺激を受けると、勝手に反応して感情が溢れ出てしまいます。

接する上での注意ポイント

「まだら症状」を理解する

常識的なしっかりした部分と、どうしてこんなことをするのかという言動が入り混じるため、周囲の人も混乱しやすくなります。特に初期は、「なぜ、さっき出来ていたことができないのか」と、歯がゆく感じることもあるでしょう。しかし、症状の出方にムラがある特徴を理解し、落ち着いて対応することで、本人の混乱も最小限に抑えることができます。

脳血管性認知症の場合、感情面での障害によって怒りっぽくなることはよくあります。しかし、これを、脳血管性認知症だから感情障害があっても当然と考えるのではなく、さまざまな喪失体験が引き金になって意欲低下や感情の不安定さが起きていると理解すべきです。

孤立させないように注意する

脳血管性認知症においては、プライドが高く、ややかたくなに自己主張を押し通そうとし、孤高を生きるような傾向があります。

うつ状態に陥りやすいので、リハビリにも消極的になりやすく、人との接点が減ることで、自発性も失われるという負のサイクルに陥りがちです。静かな環境で、個室あるいは気のあった者同士の二人部屋を用意し、その人のペースでゆっくりと、一定の距離をとりながら個別ケアに留意しつつ、地域の結びつきや役割をつくったり、集団行動を強制しない小規模のデイサービスを探したりして、本人を孤立させないように気を配ることが大切です。

楽しさ重視のリハビリを

言葉や歩行などの運動機能改善、また認知機能改善に、運動やゲームを通したリハビリテーションは有効です。しかし、脳血管性認知症の場合、不安やうつ状態からリハビリに拒否反応を示すケースも少なくありません。症状改善重視のリハビリではなく、楽しむことを重視したリハビリが良いでしょう。少人数で参加しやすい雰囲気をつくりましょう。

食生活や運動等、生活習慣を見直す

脳梗塞などの再発は、症状悪化の大きな原因です。血圧やコレステロールが悪化しないように、食生活や運動習慣を見直しましょう。軽いウォーキングや健康的な食事、ストレスを貯めない生活が大切です。また、血糖値が高いと言われている人は、定期的に医療機関を受診をして、糖尿病を防ぐよう注意しましょう。

脳血管性認知症の治療

現在、脳血管性認知症を完治する治療法はまだ見つかっていません。しかし、脳血管性認知症の場合、原因が脳梗塞などの血管障害とはっきりしています。そのため、血管障害の治療・予防がそのまま脳血管性認知症の治療につながるのです。特に、脳梗塞は一度起こると、その後も小さな梗塞が再発しやすいです。しっかりと治療し、再発防止しましょう。

次の薬は、脳梗塞の症状の悪化を防ぐ薬剤です。注射・内服で処方されます。

  • 血栓溶解薬(血栓を溶かす薬剤)
  • 抗凝固剤(血液の凝固を抑える薬)
  • 抗血小板剤(血小板の働きを抑制する薬)
  • 脳浮腫軽減薬(脳の腫れ・むくみを抑える薬)

また、脳血管性認知症の認知機能障害については、アルツハイマー型認知症に適用される薬(アリセプトレミニールイクセロンパッチ・リバスタッチパッチメマリー)が有効とされる報告もあります。ただし未承認のため保険適用外です。服用する際は、担当医との十分な相談が必要です。

脳血管性認知症は予防が肝心

高血圧や糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病は脳血管性認知症の最大の危険因子です。生活習慣病を防ぐことは、脳血管性認知症を予防することにつながります。日常生活の中で、以下の5つのポイントを押さえて予防しましょう。

バランスの取れた食事
1日3食、規則正しい食事を心がけましょう。野菜は1日350グラム以上、肉より魚、塩分・脂肪の摂り過ぎに注意します。
運動習慣
軽いウォーキングや体操など、自分に合った運動をみつけて、継続しましょう。日常の中で積極的に身体を動かします。
十分な睡眠
睡眠不足は、疲労感や判断力の低下、ストレスをもたらし、生活の質に影響します。しっかり眠って十分な休養をとりましょう。
お酒は控えめ、禁煙を心がける
たばこやお酒は血圧を上昇させ、動脈硬化を促進します。気を紛らわす方法を見つけ、禁煙・禁酒に挑戦しましょう。
ストレスを溜めない
日々生活する中で、趣味や好きなことをする自分の時間を持ちましょう。家族や友人と話して不満を溜めないことが大切です。

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前頭側頭型認知症(ピック病)

【参考資料】
脳血管性認知症 – 日本神経学会(2017年7月20日)
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_07.pdf
脳血管障害における麻痺性嚥下障害―スクリーニングテストとその臨床応用について(2017年7月20日)
http://medicalfinder.jp/doi/pdf/10.11477/mf.1552104702
生活習慣病とその予防 – 日本生活習慣病予防協会(2017年7月20日)
http://www.seikatsusyukanbyo.com/main/yobou/01.php
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