認知症の原因って?認知症を起こす原因疾患・病態

認知症を引き起こす代表的な原因疾患

認知症を起こす原因疾患・病態には、多種多様な疾患があります。『認知症疾患診療ガイドライン 2017』には原因が一覧表示されており、何と70種類以上の疾患が羅列されています。脳そのものがダメージを受ける疾患ばかりではなく、脳以外の疾患によっても発症してしまいます。原因によって治療方法も異なりますので、気になったら早めに医療機関を受診しましょう。

監修医 プロフィール

笠間 睦(かさま あつし)
1958年生まれ 藤田保健衛生大学卒業、医学博士/日本認知症学会専門医・指導医/日本脳神経外科学会専門医/榊原白鳳病院 診療情報部長/脳ドックに携わる中で認知症の早期診断・早期治療の必要性を感じ、1996年全国初の「痴呆予防ドック」を開設。2010年から2015年にかけて朝日新聞の医療サイトアピタルにて「ひょっとして認知症?」を執筆

1.神経変性疾患
アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症前頭側頭型認知症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病、嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症など
2.脳血管障害
脳梗塞や脳出血といった、脳血管障害(脳卒中)による脳血管性認知症など
3.外傷性疾患
脳挫傷、慢性硬膜下血腫など
4.脳腫瘍
脳腫瘍(原発性、転移性)、癌性髄膜症
5.感染症
髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、神経梅毒、クロイツフェルト・ヤコブ病など
6.代謝・栄養障害
アルコール依存症、ビタミンB1欠乏症、ビタミンB12欠乏症、肝不全など
7.内分泌疾患
甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症、反復性低血糖など
8.中毒性疾患
薬物中毒(向精神薬、抗癌剤、抗痙攣薬など)、一酸化炭素中毒、金属中毒(水銀、マンガン、鉛など)
9.膠原病
ベーチェット病、シェーグレン症候群など
10.その他
特発性正常圧水頭症、慢性呼吸不全、その他

認知症を引き起こす代表的疾患以外の主な原因疾患

嗜銀顆粒性認知症(AGD)

  • アルツハイマー型認知症に比べて高齢発症である
  • 記憶障害で発症するが、アルツハイマー型認知症と比べて、頑固さ、易怒性など前頭側頭型認知症との共通点をもつ
  • 進行は緩徐であり、軽度認知障害に長期間留まる例が多い
  • 辺縁系認知症の特徴を有しており、遂行機能が保たれ、ADL(日常生活動作)も比較的保たれる
  • コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)の効果は限定的である
  • 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)

    神経原線維変化型老年期認知症は、海馬を中心に多数の神経原線維濃縮体が認められる老年期認知症であり、辺縁系神経原線維変化認知症などの呼称もあります。発症は加齢とともに増加し、90歳以上の認知症発症例の20%を占めるとも報告されています。

    SD-NFTの臨床的特徴は、以下のとおりです。

    • 後期高齢者に多い
    • 緩徐進行性
    • 記憶障害で初発
    • 他の認知機能障害や人格変化は比較的軽度
    • まれにせん妄、軽度の錐体外路症候が出現
    • 画像にて海馬領域の萎縮、側脳室下角の拡大(大脳皮質のびまん性萎縮は比較的軽度)

    高齢発症のアルツハイマー型認知症は、記憶障害が主体であること、病変が側頭葉内側部に強調されることなど、SD-NFTとの共通点が多いですが、SD-NFTのほうが進行が緩徐です。

    金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「嗜銀顆粒性認知症(AGD)や神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は高齢発症タウオパチーと呼ばれているが、それらの診断法は開発途上であり、ほとんどの患者はADと誤診されている」と指摘しています(山田正仁, 2013)。

    アルツハイマー型認知症においては、アミロイドβというタンパク質が増えて老人斑が形成されることが最大の病理学的特徴です。タウオパチー(タウタンパクの異常蓄積を起こす疾患の総称)においては、アミロイドβの沈着状態を画像化するアミロイドイメージング(アミロイドPET)は陰性となります。ですから、アミロイドPETは鑑別診断にとても有用な検査手段となるのですが、高齢者の認知症診療においてアミロイドPETが実施されることは基本的にはありませんので、SD-NFTの多くはアルツハイマー型認知症と診断されコリンエステラーゼ阻害薬が投与されることになります。現状では、SD-NFTに対して有効性が証明された治療法はありません(認知症疾患診療ガイドライン2017, pp300-301)。

    慢性硬膜下血腫

    認知症の一割弱程度ですが、「治療可能な認知症」があります。その代表が特発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、薬剤誘発性認知症などです。これらの原因による認知症は、早期に発見できれば治癒も見込まれるものです。

    慢性硬膜下血腫では、頭部外傷の3週間から3カ月を経過して、頭痛や手足の麻痺、意欲低下などの症状が出現してきます。高齢者および大量の飲酒習慣のある男性に多い疾患です。

    軽度の頭部打撲でも起こり得る疾患であり、頭部打撲の有無を確認することは本症を疑うきっかけとなりますが、本人ですら頭をぶつけたことを覚えていないこともしばしばあります。

    頭蓋骨に小さな穴を開け血腫を取り除く簡単な手術により、脳機能を回復させることが可能です。CT、MRIといった画像検査で診断できますので、安易に「年のせい」と決めつけて諦めることなく、きちんと医療機関を受診して診察を受けましょう。

    神経梅毒

    梅毒は性交や血液を介した感染後、時に初感染後15~20年以上経過してから認知症を呈する進行麻痺をきたします。

    認知症の症状としては、記憶障害や見当識障害、判断力や計算力の低下といった認知機能障害だけではなく、幻覚や妄想、抑うつ、反社会的な言動や異常行動といった多彩な症状を示し特に神経梅毒に特徴的な症状はないため、認知症の鑑別診断として神経梅毒は常に念頭に置く必要があります。

    近年になって梅毒患者数の増加が報告されておりますので、認知症の鑑別診断に際しては進行麻痺にも留意し、必要に応じて血液検査で梅毒反応の有無を確認する必要があります。

    治療はペニシリンGの点滴です。改善があまりみられず後遺症が残存するケースもみられますので、感染力の強い早期の梅毒感染者との性行為や疑似性行為を避けて予防することが肝要です。

    ビタミンB1欠乏症

    ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1(チアミン)欠乏の結果として現れる脳症で、意識障害、眼球運動障害、失調性歩行を三主徴とします。アルコール多飲者や食事摂取に偏りがある栄養不良者に散見されます。

    ウェルニッケ脳症における意識障害にはさまざまなものがあり、無関心・注意障害といった軽度の認知機能障害から昏睡状態まで多様です。
    速やかにチアミンが補充されなければ、治療により他の症候は改善しても後遺障害としてのコルサコフ症候群に陥ってしまいます(ウェルニッケ脳症の85%はコルサコフ症候群に移行するとされます)。

    コルサコフ症候群では、記銘力低下による作話や見当識障害が特徴ですが、性格変化・幻覚・妄想・多幸感・易怒性などが認められることもあります。

    したがって、アルコール多飲者や栄養状態が不良な患者が意識障害を呈して救急搬送されてきた際には本症の可能性も念頭に置き、血中ビタミンB1濃度の測定を行ったうえで、ビタミンB1を含んだ輸液を行います。病初期に加療を開始できた場合には治療への反応性は良好です。

    ビタミンB12欠乏症

    ビタミンB12は肝臓・腎臓に貯蔵されており、摂取を怠ってもすぐに枯渇することはありません。しかし、胃切除や小腸疾患などでの吸収障害によりビタミンB12が極度に欠乏しますと、貧血(貧血を伴わない場合もある)とともに記憶障害・注意障害などの認知機能障害、抑うつ症状・妄想・幻覚などの精神症状が出現します。

    胃の切除手術を受けたことがある方ではビタミンB12が欠乏しやすいので、前述のような症状が出現した場合には、血液検査でビタミンB12が不足していないかどうかを確認する必要があります。ただし、ビタミンB12の血中濃度は、組織内ビタミンB12含有量を必ずしも反映しておらず、血中濃度のみで欠乏症の有無を判断することには慎重でなければならないことも報告されています。

    甲状腺機能低下症

    認知症を起こしうる全身性疾患のひとつとして甲状腺機能低下症があります。甲状腺機能低下症では、動作とともに精神活動も緩慢になり、意欲低下、無関心、記銘力の低下などを呈し、しばしばうつ病と間違われることもあります。

    これらの症状に随伴して、体重増加や易疲労感、便秘や寒がり、嗄声・喉頭の違和感などの甲状腺機能低下に伴う身体症状が出現することがあります。

    本症を疑ったら、血液検査を実施し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と遊離T4(FT4)の異常を確認します。治療は甲状腺薬の補充であり、早期に治療すれば回復します。

    ベーチェット病

    口腔内アフタ、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とします。

    ベーチェット病の約10%に神経病変の合併を認めます(神経ベーチェット病)。神経ベーチェット病では、注意障害、認知機能低下が約40%で認められたことが報告されています。

    その他:慢性呼吸不全

    高齢の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者は、注意が散漫となり焦って行動する、少しの時間も待っていられない、指導した内容の理解が乏しくすぐに忘れてしまうといった行動特性が報告されています。

    COPD患者52人(年齢:約72歳)においてMMSE(mini-mental state examination)を用いて認知機能を評価したところ、認知症が疑われる23点以下のケースは12例(23%)あったことが報告されています(藤本, 2014)。

    低酸素血症のあるCOPD患者においては、注意障害および短期記憶の低下があり、在宅酸素療法を行うことにより認知機能障害のリスクを減少させることも報告されております(Thakur, 2010)。

    その他:睡眠時無呼吸症候群

    Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)研究の報告では、睡眠時無呼吸症候群がある場合、軽度認知障害やAlzheimer型認知症の発症が早くなり、持続的陽圧呼吸による治療により認知症の進行を遅らせることが示されています。

    【参考資料】
    ■編集/「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 認知症疾患診療ガイドライン2017 医学書院, 東京, 2017
    ■編集/日本認知症学会 認知症テキストブック 中外医学社, 東京, 2008
    ■シリーズ総編集/辻 省次 専門編集/河村 満 アクチュアル脳・神経疾患の臨床─認知症・神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012
    ■監修/河野和彦:ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版, 東京, 2016
    ■齊藤祐子:嗜銀顆粒性認知症. 内科 Vol.120 273-278 2017
    ■山田正仁:認知症疾患の精度の高い早期診断を目指して. 最新医学 Vol.68 741-742 2013
    ■国立感染症研究所
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/bac-megingitis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html
    ■Snow CF:Laboratory diagnosis of vitamin B12 and folate deficiency. A guide for the primary care physician. Arch Intern Med Vol.159 1289-1298 1999
    ■山口佳剛 他:膠原病と関連する認知症. Modern Physician Vol.33 30-33 2013
    ■ベーチェット病(指定難病56)|難病情報センター
    http://www.nanbyou.or.jp/entry/330
    ■Monastero R et al:Cognitive impairment in Behcet’s disease patients without overt neurological involvement. J Neurol Sci Vol.220 99-104 2004
    ■藤本繁夫 他:生活習慣病と認知機能─慢性閉塞性肺疾患(COPD). 日本臨牀 Vol.72 721-725 2014
    ■Thakur N et al:COPD and cognitive impairment: the role of hypoxemia and oxygen therapy. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis Vol.5 263-269 2010
    ■Osorio RS et al:Sleep-disordered breathing advances cognitive decline in the elderly. Neurology Vol.84 1964-1971 2015

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